第20回 2020年度 FFIT学術賞受賞者

  第20回 2020年度 船井学術賞受賞者 7名    (五十音順)
武田 俊太郎 ( Shuntaro Takeda )
東京大学大学院工学系研究科 准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 量子テレポーテーションの高性能化とそのループ型光量子コンピュータへの応用

◇◇業績概要◇◇

武田氏は日本発・世界初の量子コンピュータへとつながる独創的な研究業績を残しています。量子コンピュータは、新しい原理で動作する次世代の超高速コンピュータです。武田氏は、光を用いた量子コンピュータに着目し、その演算機能を担う「量子テレポーテーション回路」を新手法により100倍以上高効率化しました。さらに、それを用いてどれほど大規模な計算も最小規模の回路で実行できる「ループ型光量子コンピュータ」を発明し、その心臓部の開発にも成功しました。これらの成果は、光量子コンピュータの飛躍的な大規模化を可能とし、その開発に必要なリソースやコストを大幅に減少させるもので、光量子コンピュータにイノベーションをもたらすと期待されます。以上の成果はNature誌やScience Advances誌をはじめとする一流紙に掲載され、NHKニュース等で報道された他、文部科学大臣表彰若手科学者賞など11件の受賞につながっています。

肥後 芳樹 (Yoshiki Higo )
大阪大学大学院情報科学研究科 准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ ソースコード解析に基づくソフトウェア開発支援に関する研究

◇◇業績概要◇◇

ソフトウェア開発者は50%以上の時間をデバックに費やしているともいわれている。肥後氏は、ソフトウェア開発におけるデバック支援に関する研究を行ってきている。デバックを困難にする原因の一つとしてソフトウェアのソースコード中に存在する重複コードの存在がある。肥後氏はこれまでに、検出能力が高いが検出速度が遅かったプログラム依存グラフを利用した検出法について研究を行い、検出の精度を保ったまま大幅に速度を向上させることに成功した。これにより、大規模なソフトウェアに対してもプログラム依存グラフを利用した検出法が適用できるようになった。また、ソースコード中の潜在的な問題個所を自動検出する研究において、従来はプログラミング言語に起因した問題の検出しか行えていなかったが、肥後氏は対象ソースコードの開発履歴を利用した検出法を開発し、そのソースコード固有の問題個所を自動検出できる手法を開発した。
肥後氏はこれまでに学術論文誌70報、国際会議禄102報(全て査読有り)の研究業績を有しており、各種学会より14賞、国際会議において3賞、国内シンポジウムおよび研究会において19賞、所属組織である大阪大学より5賞の受賞歴がある。

前川 卓也 (Takuya Maekawa)
大阪大学大学院情報科学研究科 
准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 人間・生物の行動ビッグデータ認識技術の研究

◇◇業績概要◇◇

前川氏はセンサにより観測されたビッグデータを用いて実世界を認識・理解する人工知能の研究開発を推進してきた。特に、人間や動物に添付された小型でリソース制約が大きいセンサデバイス上での行動認識技術に関して国際的に顕著な成果を達成している。これらの技術をもとに世界で初めて野生動物に人工知能を搭載した研究者であり、人工知能を備えた動物装着型小型センサデバイスや説明可能な深層学習に基づく動物行動分析手法を用いて、これまでに知られていなかった動物の生態を次々と明らかにした。また、10年以上前からスマートウォッチ等の普及を予見し、小型身体装着センサ用いた行動認識を世界的にリードし続けており、工場や物流センタ等での作業行動認識に適用している。前川氏の成果は、野生生物との共生、コロナウイルス等の人獣共通感染症の伝搬経路の解明、労働人口減少社会における生産性の向上、独居高齢者の見守りといった持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための要素技術であり、社会的重要性も高い。

松田 信幸 ( Nobuyuki Matsuda )
東北大学大学院工学研究科
准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 光導波路回路を用いた小型・高機能量子情報デバイスの開発

◇◇業績概要◇◇

量子情報処理は、究極的に安全な暗号通信や、組み合わせ最適化や創薬等の重要分野における複雑な問題の効率的な計算を可能とするため、次世代の情報処理技術として注目を集めている。松田氏は光の量子である光子用い、量子情報処理のためのデバイスの研究開発を行ってきた。特に、光導波路集積回路や光ファイバといった先端光学素子を量子技術へと先駆的に適用し、システムの小型化、大規模化、高機能化を目的としながら、光量子情報処理技術の発展に向けた研究に取り組んだ。結果、回路構成を高速かつ自在に書き換え可能な光量子コンピュータ演算回路、光子の波長を効率100%で変換する光ファイバ型デバイス、シリコンチップ上に小型集積された量子もつれ光源等、独創的かつ革新的な数々の量子光デバイスを世界に先駆けて実現した。松田氏はこれらの成果により、光通信等の他分野を巻き込みながら、量子情報処理研究の飛躍的進展に大きく貢献した。

安井 隆雄 ( Takao Yasui )
名古屋大学大学院工学研究科
准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 尿中microRNAの網羅解析による無侵襲がん早期検知の実現

◇◇業績概要◇◇

安井氏は「がん」の克服を志向して、ナノ空間制御技術と機械学習解析技術を駆使する「尿中microRNAの網羅解析による無侵襲がん早期検知」を実現し、尿リキッドバイオプシーの開拓を行った(Science Adv., 2017)。ナノ空間制御技術により、尿1mLから1300種類以上の発現microRNAを世界で初めて発見した(従来技術:尿20mLから200種類程度)。また、機械技術学習により、microRNAの発現パターン解析によってがん因子microRNA群の同定を達成し、診断率98%・感度98%・特異度99%の早期肺がん検知の実現と、その他がん種への展開を達成した。現行法にて尿からがんを高確度で判定できる手法は存在せず、本研究の成果が世界初の成果となった。これら安井氏の研究の意義は、世界で初めて、尿1mLより1300種類以上のmicroRNAを発見したこと、その発現パターンより98%の高確度で無侵襲な早期がん検知を実現したことにある。

矢谷 浩司 ( Yatani Koji )
東京大学大学院工学系研究科
准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 知的作業支援モバイルプラットフォームを実現するインタフェース研究

◇◇業績概要◇◇

矢谷氏はモバイルデバイス・スマートフォンを知的作業支援プラットフォームへと変革させる技術の開発とその評価を多角的に行ってきた。より知的作業に適したインタフェースを提供するため、ペンとタッチ入力の組み合わせに着目し、ペンとタッチの位置や動作の関係性により様々な機能を実現した。これにより、一般的なメニューなどを使用せずとも、様々な機能を即座、かつユーザにとって自然な形で実行でき、ペンとタッチ入力の重要性を示した。さらに、アプリケーションを指向した研究を推し進め、モバイルデバイスの使いすぎを抑制するシステムを提案した。これら研究成果は計6編の論文として発表され、2件の受賞があり、矢谷氏の学術的貢献は大変顕著である。産業界においては26件の特許や、現在市場に流通しているモバイルデバイスのインタフェースデザインへの応用がなされており、実社会への影響も非常に大きい。

横田 知之 ( Tomoyuki Yokota )
東京大学大学院工学系研究科
准教授

(所属は、2020年4月1日現在)
受賞テーマ 超柔軟な有機エレクトロニクスの開発と生体・医療応用

◇◇業績概要◇◇

横田氏は、有機集積回路やセンサなどの様々な複合素子を極薄基板上に集積化し、世界に先駆けて、システムレベルで超柔軟なエレクトロニクスを実現した。特に、極薄基板上に有機発光素子と有機受光素子を集積化することで、指に巻きつけることが可能な血中酸素濃度計を開発した。さらに、光センサと低温ポリシリコンを用いた集積回路の技術を組み合わせることで、生体認識に必要な高解像度、脈拍などのバイタルサインを計測するのに必要な高速撮像が可能なシート型のイメージセンサを実現しました。このシート型イメージセンサを用いることで、生体認証データとバイタルサインを世界で初めて同時に計測することに成功しました。生体認証とウェラブル機器を組み合わせることで、「なりすまし」などを防ぎながらのヘルスケアモニタリングが可能となる。横田氏は、社会実装に向けて既に産業界と協力することでウェアラブル機器にフレキシブルセンサを集積化し目覚ましい成果をあげている。