第19回 2019年度 FFIT学術賞受賞者

第19回 2019年度 船井学術賞船井哲良特別賞受賞者
竹井 邦晴 ( Kuniharu Takei )
大阪府立大学大学院工学研究科  教授

(所属は、2019年4月1日現在)
受賞テーマ 無機ナノ材料による高性能フレキシブルデバイス技術の開拓

◇◇業績概要◇◇

竹井氏は、これまで一般的ではなかった無機ナノ材料の優れた特性及び機械的柔軟性に注目し、この大面積印刷・転写技術の新規開発、そしてそれらを用いた高性能フレキシブルデバイス技術の開拓を行ってきた。その成果は無機材料によるフレキシブルデバイスの分野では世界トップレベルを走っている。
特に、これまで難しいと言われていた①低消費電力駆動フレキシブルCMOS回路、②多種フレキシブルセンサを溶液プロセスで形成する技術、③健康管理用ウェアラブルデバイス・ソフトロボット応用・IoT応用、といった材料、作製技術、新規応用分野への展開を横断的に遂行し実現してきている。
これらはSi半導体技術及び微細加工技術、無機ナノ材料物性、フレキシブルデバイス、プリンテッドエレクトロニクスといった多分野で研究開発を精力的に行うことで初めて実現できた結果である。また業績としてNature誌を含む112報の査読有学術論文発表、国内外で著名な賞も受賞してきた。


第19回 2019年度 船井学術賞受賞者 4名
関 剛斎 ( Takeshi Seki )
東北大学金属材料研究所 准教授

(所属は、2019年4月1日現在)
受賞テーマ 規則合金を基軸としたスピントロニクス機能の創出に関する研究

◇◇業績概要◇◇

関氏は、これまで一貫してスピントロニクス材料研究に従事しており、新材料の開発や材料特性の改善によってデバイスの機能性向上新機能の創出、さらに物理現象の解明に取り組んでいる。
特に、「強磁性規則合金」がスピントロニクス材料として有望であることに早くから着想し、研究を継続してきた。具体的には、高磁気異方性を有するL10型FePt規則合金、および高スピン分極を示すL21型ホイスラー合金を研究の基軸とし、新しいスピン偏極源によるデバイスの高集積・多機能化へのブレイクスルーをもたらした。また、超低エネルギー磁化反転技術を開発し、省エネルギー動作に向けた道筋を示した。さらに、スピントルク発振の高性能化に成功し、高感度磁場センサの可能性を実証してきた。
いずれも世界に先駆けた革新的成果であり、産業・社会的貢献は大きい。最近では、規則合金における電流‐スピン流‐熱流間の変換現象について重要な成果を挙げており、基礎および応用の両面で分野を牽引している。

都甲 薫 ( Kaoru Toko )
筑波大学数理物質系 准教授

(所属は、2019年4月1日現在)
受賞テーマ IV族材料薄膜の低温合成技術と新規エネルギーデバイスの研究

◇◇業績概要◇◇

情報化社会の発展にともない、身の回りの電子デバイス数は急速に増加している。そのような中、エネルギーの確保・供給に関する課題が顕在化している。都甲氏は、既存の電子材料であるSiと親和性の高いIV族材料に着眼するとともに、その結晶薄膜を「好きなところに合成する」研究で世界をリードしてきた。
特に、薄膜が非晶質状態から結晶に成長する過程について微視的観点から制御を図り、絶縁膜やガラス、プラスチックなどの上に従来最高の機能を持つIV族材料(Si、SiGe、Ge、GeSn、グラフェン)を低温合成することに成功した。さらに合成膜の特徴に応じて、「太陽電池」「熱電変換素子」「トランジスタ」「二次電池」など、創・省・蓄エネルギーの分野を横断した新規デバイスに展開している。各分野において、世界初・世界最高となる顕著な成果を挙げ続けており、国内外で招待講演に招聘されている。
以上の成果について、総被引用件数3000件を超える多くの学術論文に結実しているほか、講演奨励賞・業績賞を受賞するなど高い評価を受けている。

福田 憲二郎 ( Kenjiro Fukuda )
理化学研究所染谷薄膜素子研究室、創発物性科学研究センター 
専任研究員

(所属は、2019年4月1日現在)
受賞テーマ 超柔軟な有機太陽電池の高性能化とウェアラブルセンサ応用

◇◇業績概要◇◇

福田氏はこれまでに世界最高のエネルギー変換効率(PCE)を有しながら、伸縮性、水安定性、耐熱性を両立した超薄型有機太陽電池を実現した。PCEや環境に対する安定性は基板膜厚とトレードオフ関係を有しており、テキスタイル分野応用などに必要と考えられる全体厚さが10㎛以下において、これまで最高のPCEは4.2%であり、また耐熱性や水安定性を達成した報告例はなかった。
福田氏は、総膜厚3㎛、エネルギー変換効率13.0%という、フレキシブル有機太陽電池における世界最高水準のPCEを有した超薄型有機太陽電池を実現した。同時に100℃以上の耐熱性、80日以上の大気安定性などの高い環境安定性も実現した。さらに、この超薄型有機太陽電池を生体センサと集積化させることで、超薄型の自立駆動型ウェアラブルセンサを実現した。
以上の成果はウェアラブルエレクトロニクス分野における電力供給の問題を解決に導く、重要な成果である。

村上 隆夫 ( Takao Murakami )
産業技術総合研究所サイバーフィジカルセキュリティ研究センター
主任研究員

(所属は、2019年4月1日現在)
受賞テーマ 安全性と有用性を両立するプライバシー保護技術に関する研究

◇◇業績概要◇◇

村上氏は、位置情報、購買履歴、電力使用量などのパーソナルデータの利活用(母集団分布の推定、ターゲット顧客の解析など)の促進に向けて、パーソナルデータの漏洩を強固に防ぎつつ、かつデータの有用性を一切失わないように加工するための安全性指標を世界で初めて確立した。本指標を満たす技術を幾つか確立し、「データを加工しない場合とほぼ同じ有用性を達成できる」という、従来の常識を覆す結果を、現実的な仮定の下で示すことに成功した。
本成果は情報セキュリティのトップ国際会議USENIX Security (採択率=15.7%) で発表し、Google が Chrome に実装したデータ加工技術の分布推定誤差を2桁低減するなど、世界の産業界にも大きなインパクトを与えた。
また、関連成果も数々のトップ国際論文誌や難関国際会議などで発表し、難関国際会議の Best Paper やドコモ・モバイル・サイエンス賞を受賞するなど、国内外で評価されている。