第18回 FFIT学術賞受賞者

第18回 船井学術賞受賞者7名
三浦 正志 ( Masashi Miura )
成蹊大学大学院理工学研究科  教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ 超伝導臨界電流向上技術と情報通信デバイスへの応用

◇◇業績概要◇◇

近年、データ通信が爆発的に増大し、今以上に周波数資源の逼迫が世界的に見込まれ大きな問題となっている。次世代通信技術においては、高周波数の効率的利用を実現可能な移動体通信基地局用フィルタの開発が急務となっている。液体窒素温度下でも高い超電導特性を示すREBa2Cu3Oy(RE123)超伝導薄膜は、一般的にフィルタに用いられている超電導金属と比べて低い表面抵抗を有するため応用が期待されている。
三浦氏は、応用上重要である臨界電流密度(Jc)を向上させるために、Jc低下の要因であった量子化磁束の運動を抑制するため、ナノサイズ非超電導相を結晶性を低下させずに導入させる技術を開発した。その結果、RE123薄膜だけでなく近年発見された鉄系超伝導体においても世界最高レベルのJc特性を得ることに成功した。これらの成果は、Nature系論文を含む78件の査読付論文として発表され、全国発明表彰21世紀発明賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞など18件受賞し、国内外から高く評価されている。

飯塚 哲也 ( Tetsuya Iizuka )
東京大学大規模集積システム設計教育研究センター 准教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ 時間領域信号処理による高精度・高効率集積回路設計技術に関する研究

◇◇業績概要◇◇

現在の先端半導体集積回路技術では1Vを下回る低電圧動作が一般的であり、電圧振幅を用いた従来の信号処理(電圧領域)では信号対雑音比の充分な確保が困難となる。微細集積回路における従来手法の弱点を克服し究極的な高性能・高機能を実現するため、候補者は時間領域信号処理による集積回路設計技術の研究に継続して取り組み、理論・応用の両側面から先駆的な業績をあげてきた。
具体的な研究業績は主に以下の3つに集約される。(A)時間領域のみならず電圧・電流領域においても重要な構成要素であるスイッチング回路の動作、精度解析を統一的に行う理論体系を世界で初めて構築し、正確にモデル化するとともに設計最適化の指針を示した。(B)時間領域信号処理を実現する上で最も基本的かつ重要な要素である時間-デジタル変換器において、提案当時の時点で世界最高の分解能を達成するフェムト秒オーダーの変換器を提案、実証した。(C)時間領域信号処理を実際の通信に応用し、極低消費電力の待機状態からの即時復帰を可能とする、新規なクイックスタート通信方式を提案・実証した。

内田 健一 ( Kenichi Uchida )
国立研究開発法人物質・材料研究機構
磁性・スピントロニクス材料研究拠点 グループリーダー

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ スピンカロリトロニクスの基盤原理及び応用技術の開拓

◇◇業績概要◇◇

内田氏は、スピンと熱の相互作用に基づく新しい物理原理・エネルギーデバイス技術の開拓を行い、スピントロニクスと熱効果の融合研究「スピンカロリトロニクス」において世界を先導してきた。内田氏は、熱流によるスピン流生成現象であるスピンゼーベック効果の発見以来同分野の研究を推進し、その後もスピンゼーベック効果の相反現象であるスピンペルチェ効果の熱イメージング計測の実現や、電流を曲げるだけで熱制御可能な「異方性磁気ペルチェ効果」の世界初の観測など、スピントロニクスや熱電分野に大きなインパクトを与える成果を得てきた。
内田氏は独創的な計測手法と実験設計により、これまでは測定することすら困難であった熱電・熱スピン変換現象の観測と解明、“スピンを使わなければ実現できない”新しい熱エネルギー制御機能の実証に次々と成功しており、船井学術賞受賞者に相応しい研究業績を有している。

大関 真之 ( Masayuki Ohzeki )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ 量子力学を駆使した計算技術の基盤作りと機械学習への展開

◇◇業績概要◇◇

半導体の集積技術の限界を迎えようとしているなかで、全く異なるパラダイムによる計算技術として注目を浴びている「量子コンピュータ」の実現が目前に迫っている。そのために必須の課題である誤り訂正技術の理論的基盤を物理学の高度な手法を巧みに利用した解析手法で構築した。また組合せ最適化問題や機械学習への応用が期待される量子アニーリングについて、その発展系であるNon-stoquastic系に対するシミュレーション手法の開発を理論物理学の2大手法である場の理論と統計力学の融合により実現した。基盤づくりのみならず、量子アニーリングを隆盛を極める深層学習の学習過程への導入を行い、未知のデータに対する汎化性能を引き上げる量子機械学習アルゴリズムの開発を産学協同で行い世界に先駆けてその威力を知らしめた。以上のように、大関氏は理論物理学の最先端を情報科学技術の進展に結びつける業績をあげた。

太田 禎生 ( Sadao Ota )
東京大学先端科学技術研究センター 准教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ 機械学習が駆動する高速蛍光イメージングセルソーター実現

◇◇業績概要◇◇

太田氏は新規光技術や流体・電気工学技術を、機械学習技術を中心として真に融合する事により、高速蛍光「イメージ」セルソーターを世界で初めて実現した。長い間、高速光イメージ計測とリアルタイム情報処理を両立するという技術課題がイメージセルソーター実現を妨げてきた。太田氏は新しい光計測法の開発に止まらず、人を介さない画像解析に画像形式は必要ないという逆転の発想から、圧縮計測信号を直接機械学習で判別して「画像を見ずに形を見る」ゴーストサイトメトリー法を実現し、上記課題を一挙に解決した。光、流体、バイオ・情報と多分野で重要技術を実現し続けてきた太田氏の知識・経験が成した結果であり、人の限界を超えるデータ爆発の時代に、計測ハード技術も機械学習駆動に適した形に再考する革新的な試みでもある。またアカデミアや組織の枠を越えてベンチャー企業を設立して創り上げた機械学習駆動型の融合テクノロジーがScience誌に掲載され、医薬応用の展開、国際的な実用化に邁進する先駆的な事例である。

鈴木 健仁 ( Takehito Suzuki )
東京農工大学大学院工学研究院
先端電気電子部門 准教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ 極限屈折率材料の開拓によるテラヘルツ応用システムの研究

◇◇業績概要◇◇

鈴木氏は材料の屈折率・反射・透過をいかに自由自在に、高周波の電磁波領域で制御するかという問いに取り組んだ。メタサーフェスにより自然界の材料には存在しない、超高屈折率、ゼロ屈折率、負の屈折率を有する無反射で透明な材料を、次々世代の情報通信周波数帯の0.3~3THz帯で開拓した。この極限屈折率材料により、第6世代(Beyond 5G)を想定したIoT用超高速無線通信デバイスの光源の高出力化(4.2倍)を実現した。さらに、従来の計測ツールの検出感度を大幅に超える極限領域に感度(-60dB)を有する光学コンポーネントが実現できることを見出した。超高感度なテラヘルツ波帯偏光子に応用し、特許[特許5626740号,US9964678]を取得した。JSTより国策上重要な特許として認定され、JSTへ譲渡した。企業とライセンス契約し、製品化[商標5769812号]し、2014年度に茨城大学(当時所属機関)単独特許で初の純利益に達成した。

橋田 朋子 ( Tomoko Hashida )
早稲田大学基幹理工学部表現工学科 准教授

(所属は、2018年4月1日現在)
受賞テーマ マテリアル指向プログラマブル・マター技術の創出とその応用

◇◇業績概要◇◇

本研究は次世代の“現実世界のリアリティ拡張手法”として注目を集めつつも具現化が難しかった“プログラマブル・マター(計算機制御可能な物質)”に関する研究である。従来研究が、電子的・機械的機構による疑似的な実現にとどまっていたのに対し、橋田氏は実世界の物質の色・形・硬さなどの多様な物性を、光・熱・湿気などの計算機制御可能な物理刺激を介して、間接的に制御するマテリアル指向の新手法を考案し、本質的な意味でのプログラマブル・マターの具現化に成功した。このイノベーティブな成果は国内外の学会から高い評価を受け、11件の受賞に至っている。橋田氏はこの成果を次世代の情報メディア・広告空間演出・デジタルファブリケーションといった多様な産業で応用利用することにも力を入れており、開発したアプリケーションシステムは既に国内有数の商業施設や公共空間での中長期の招待展示、広告企業での招待WS、食企業との共同研究などに至っている。