第17回 FFIT学術賞受賞者

第17回 船井学術賞受賞者7名
杉本 宜昭 ( Yoshiaki Sugimoto )
東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ 半導体表面の個々の原子の識別と操作

◇◇業績概要◇◇

全ての物質は原子から構成されている。そして原子と原子は化学結合力により結びついている。杉本氏は、原子間力顕微鏡を用いて、2つの原子の間に働く1本の化学結合力を精密に計測する技術を開発した。それにより、L. Paulingが1932年に提唱した化学結合の基本概念を個々の原子レベルで検証することに初めて成功した。またその知見を応用することで、個々の原子の元素同定や電気陰性度の計測という究極的な分析手法への道を切り拓いた。さらに、化学結合力を制御することにより、表面の1つひとつの原子を操作して、室温で初めてナノ構造体を組み立てることにも成功している。そして、そのナノ構造体を室温でデバイスとして機能させる実証実験にも成功した。化学結合力の精密計測とその制御によって、様々な物質の性質を単原子レベルで分析し、新ナノ材料・デバイスを創成する方法論が確立した。

伊藤 健洋 ( Takehiro Ito )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ 解空間の遷移性に関するアルゴリズム理論の先駆的研究

◇◇業績概要◇◇

伊藤氏は、解空間の遷移性に関する画期的なアルゴリズム理論を確立および体系化し、従来は解析が難しかった「持続的システム」に対し、 アルゴリズムの数理的解析を可能とした。伊藤氏は、現代の理論計算機科学の源流ともいえるKarpの21問題に着目し網羅的な解析を進めることで、数多の組合せ問題に対して理論の拡張と波及を可能とした。この理論体系化は、その後、世界的な新しい研究潮流を生み出す起点となっている。一般に、解空間は指数サイズとなるが、伊藤氏の開発した斬新なアルゴリズム手法は、計算時間の指数的な高速化を実現している。また伊藤氏は、解空間の遷移性の観点から、組合せ問題の新しい分類法を提唱し、従来型の解析では得られない分類事例を複数挙げることに成功している。さらに、産学連携を通して、開発したアルゴリズムの実社会システムへの適用を進めており、応用面からも伊藤氏の理論の有効性を実証している。

梅津 信二郎 ( Shinjiro Umezu )
早稲田大学創造理工学部 准教授

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ 高精度3Dプリンタの開発と高機能デバイスへの応用

◇◇業績概要◇◇

本研究は、最近話題になっている3Dプリンタに関する内容である。既存の3Dプリンタでは、試作品やサンプルの作製はできるが、これらの試作品を実際に医療分野やエレクトロニクスなどの精密機器分野で利用するには、精度や材料の面で問題があった。梅津氏はこの問題を解決するにあたり、静電力をミクロにコントロールすることで、高粘性な液体から微小なサブミクロン~数ミクロンの液滴をプリントする技術を確立した。さらに、インクやペーストだけでなく、生きた細胞を含むバイオ溶液のような時間経過を伴い、形態が変わる材料でも、精密に3Dプリントできる装置の開発を行った。複雑な3次元状組織を作製できることを実証した。さらに、この装置は、有機太陽電池の作製にも応用できることを実証した。また、既存のFDM方式の3Dプリンタでは、加工精度が高くない。これを解決するにあたり、化学溶解仕上げを援用する手法(3D-CMF)を開発し、広範な領域における様々なデバイスを高精度に作製する手法を確立した。

水野 洋輔 ( Yosuke Mizuno )
東京工業大学未来産業技術研究所 助教

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ 光ファイバを用いた分布計測技術の機能進化:世界最高速度・最高空間分解能の実現

◇◇業績概要◇◇

近年、インフラの経年劣化や地震等の自然災害による損傷が大きな社会問題となっており、構造物に光ファイバを埋め込むことで、その変形を正確に監視する技術の研究が精力的に推進されている。水野氏は、光ファイバ中のブリルアン散乱に基づき、歪(ひずみ=伸び)と温度の分布を検出できる新たな光ファイバセンサ「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」を提案し、性能向上に取り組んできた。大きな成果として、従来法の5000倍以上となる100kHzのサンプリングレートを達成し、片端からの光入射とリアルタイム動作の両立に世界で初めて成功した。また、分布型光ファイバセンサとして世界最高となる2mmの空間分解能(検出可能な歪印加区間の長さが世界最短)を実証した。本技術の提案から超高速化・超空間分解能化に至るまでの成果は、光ファイバセンサの新たな応用領域を開拓するものである。一連の業績は、すでにNature系列誌を含む120件以上の査読付学術論文や国内外のメディアによる多数の記事となっている。

三輪 真嗣 ( Shinji Miwa )
大阪大学大学院基礎工学研究科 准教授

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ ナノ磁性体における電気的スピン制御のデバイス応用に関する研究

◇◇業績概要◇◇

三輪氏は金属の原子層成長技術を駆使して特徴的な異種材料接合を有する新物質を創成し、スピントロニクスと呼ばれる物性研究を開拓してきた。具体的にはナノ磁性体の磁極(スピン)を電気的に制御し、応用に資する新機能創成に注力した。主な業績のひとつはナノ磁性体の電気応答に対する非線形効果の発見である。これにより半導体ショットキーダイオードのマイクロ波検波感度の3倍を有するスピントロニクスデバイスを室温で実現した。もうひとつの業績はスピントロニクスデバイスの中枢であるナノ磁性体における電界効果の放射光による機構解明である。デバイスの電界効果への放射光適用は実験設計の困難さから皆無であったが、三輪氏はこれを可能にして新分野を切り拓いた。結果として電界効果の起源が金属中の多極子自由度誘起であることを見出し、現状比10倍の電界効果を示す材料開発指針を打ち立てた。三輪氏の研究はスピントロニクスデバイスの応用に期待を与え、界面物性開拓および新規応用物性発見に貢献している。

山川 雄司 ( Yuji Yamakawa )
東京大学生産技術研究所 講師

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ 実時間センサフィードバックによる高速ロボットの制御とその応用

◇◇業績概要◇◇

山川氏は、従来困難とされていたロボットによる柔軟物の操りに着目し、高速ロボットシステムを用いて動的紐結び操作や布の折りたたみ操作を高速に実現する手法を提案し、実際に数百ミリ秒オーダでの柔軟物の高速操りを実現している。加えて、ミリ秒オーダでの人間の運動の認識とその認識結果に基づくロボット制御を実現する、人間の動作に完全反応可能な人間機械協調システムを開発するとともに、その一例として「勝率100%じゃんけんロボット」を実現し、その実験動画は動画投稿サイトYouTube において500万回以上の再生回数に達し、世界中に注目され高い評価を得ている。加えて、高速ロボットハンド・アームの協調制御、ロボットハンドによる物体回転操りによる3次元形状復元、高速二足歩行ロボット、高速ビジョンによるビジュアルエンコーダの開発とその応用としての回転制御や、Dynamic Compensation による新しいロボット制御法の研究等にも尽力し、多くの研究業績を創出している。これらの成果が認められ、27個の受賞歴がある。

山田 崇恭 ( Takayuki Yamada )
京都大学大学院工学研究科 助教

(所属は、2017年4月1日現在)
受賞テーマ トポロジー最適化法の拡張と展開及び製造工程を考慮した最適設計法の構築

◇◇業績概要◇◇

山田氏は、トポロジー最適化の未解決課題を本質的に解決する方法論の構築に世界に先駆けて成功した。すなわち、レベルセット法に基づいた明瞭な外形形状表現をしながら幾何学的な複雑さを制御可能な方法論を数学理論に基づいて構築した。その方法論は、電磁気学、熱流体力学などの様々な領域の設計問題、均質化理論に基づいた材料設計問題設計問題への展開に成功している。さらには、最適設計法を利用した新たな現象の創成法の確立、製造生産工程を考慮可能な方法論の基本的な考え方の提唱等、当該分野における先駆的かつ独創的な成果がある。また、境界要素法や粒子法、格子ボルツマン法等の様々な数値解析方法へ展開により、これらの特徴を利用した方法論の開発にも成功し構造最適化分野の新しい領域を開拓した。特筆すべきことは、既に103報の学術論文を執筆しており、ISSMO Springer Prizeや文部科学大臣表彰(若手科学者賞)をはじめとして、内外から極めて高く評価されている。