第16回 FFIT学術賞受賞者
西山 大樹 ( Nishiyama Hiroki )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授 (所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 移動端末間通信技術の研究ならびにスマホdeリレーの開発 |
◇◇業績概要◇◇ 通信機を搭載した移動体の例としては人、自動車、船舶、航空機に加えてドローンやロボットなど様々あるが、従来の移動端末間通信技術の多くは、異なる種類の移動端末が混在する環境下ではその性能が著しく低下してしまう。そのため、一対一の近接ペア通信を除き、実用化・普及展開にまで至った事例は存在していない。 |
桂 誠一郎 ( Katsura Seiichiro)
慶應義塾大学理工学部 准教授 (所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 波動制御に基づく応用抽象化の創成および人間支援ネットワーク応用技術の開拓 |
◇◇業績概要◇◇ 桂氏はこれまでに、波動方程式に基づく分布定数モデリングを導入することで、無限の共振モードすべてを安定化させる波動制御を確立してきた。従来の制御系は単純化されたバネーマスモデルに基づく制御系設計であるため、高次共振を考慮する際には高次微分を必要としており、工学的な実装が困難となっていた。提案する手法は、むだ時間要素を用いることで、等価的に無限階の微分を達成することが可能であるため、無限次元のモデリングが達成できる。特に、純粋微分ができないという工学実装における問題を解決するもので、ロボットによるフレキシブルかつ高速なモーションの獲得に向けて必要不可欠な理論を構築している。このことは、モデルの抽象化が工学の限界突破に極めて重要であることを示唆するものとなっている。桂氏は波動制御理論を振動抑制制御、温熱感覚の呈示、新型アクチュエータの開発、無線電力伝送の高効率化など、今後の人間支援に資する分野への応用展開を進めている。
|
桜庭 裕弥 ( Sakuraba Yuya )
国立研究開発法人物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 主任研究員 (所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 高スピン分極ホイスラー合金材料のスピントロニクスデバイス応用に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ 「ハーフメタル」は伝導電子が完全スピン分極する特殊な電子構造をもつ物質であり、磁気ランダムアクセスメモリなどあらゆるスピントロニクスデバイスの性能を飛躍的に向上させる究極的材料として期待される。しかし、その存在が理論予測された1980年代以降、膨大な研究が行われたにも関わらず、室温でハーフメタル性に由来する高いデバイス性能が実現された例は皆無であった。桜庭氏は、ホイスラー合金系ハーフメタル材料の開発とそのスピントロニクスデバイス応用の研究に長年に渡り従事し、2005年にCo2MnSiのスピン分極率が90%を超えることを世界で初めて実証し、ハーフメタルホイスラー合金のブレークスルーを起こした。さらに桜庭氏は、実デバイス応用に向けた研究を重ね、2009年にCo2MnSiを用いた磁気抵抗素子で、従来素子よりも一桁大きい磁気抵抗出力を室温で実現した。これはハーフメタルの性能を室温で観測した世界初の成果であり、今後、あらゆるスピントロニクスデバイス発展に貢献することが強く期待される。
|
冨岡 克広 ( Tomioka Katsuhiro)
北海道大学大学院情報科学研究科 准教授 (所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 半導体ナノワイヤ集積技術と次世代トランジスタ応用展開に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ パソコンなどの集積回路の性能は、回路を構成する電界効果トランジスタ(FET)の微細化と低電圧化を牽引力として向上してきた。しかしながら、近年、微細化によるリーク電流の増加や低電圧化によるスイッチのオン・オフ比の低下などが性能劣化要因として顕在化しており、単純な素子の微細化による性能向上が困難になってきている。この問題に対して、冨岡氏は独創的な方法で、シリコン基板上に高性能半導体材料であるⅢ-V族化合物半導体ナノワイヤを垂直に均一性よく結晶成長させる方法を開発した。さらにこのナノワイヤ構造を用いることで、縦型FETや縦型トンネルFETを作製し、リーク電流が極めて低く、低電圧においてもオン・オフ比が充分に高い優れたトランジスタ特性を実証することに成功しました。これらのFETは、従来の半導体集積回路の消費電力を90%以上低減できる可能性を有しており、FET素子の微細化限界を打破する素子として、今後の発展が期待できる。
|
細井 厚志 (Hosoi Atsushi )
早稲田大学理工学術院 准教授
(所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 繊維強化複合材料の長期信頼性評価技術の確立とその応用 |
◇◇業績概要◇◇ 地球温暖化防止及びCO2排出削減、省エネルギー化を推進するために、次世代電気自動車やエネルギーデバイス、電子デバイス等に軽量で機械的・電気的・熱的特性に優れる炭素系複合材料の適用が期待されている。細井氏は実験及び電磁気学、破壊力学、損傷力学に基づき、情報科学を応用した学際的な研究を推進し、繊維強化複合材料(FRP)の(Ⅰ)マイクロ波による非接触・非破壊損傷評価技術の構築、(Ⅱ)超高サイクル疲労特性評価技術及び寿命予測シミュレーション技術の構築、について取り組み機械・構造材料に向けた寿命評価基盤技術を構築した。非破壊損傷評価技術については、マイクロ波を用いた評価装置を構築し、FRP積層板中の7.5µmの剥離を検出することに成功した。疲労寿命評価技術について、独自に加速試験手法を確立し、世界で初めて炭素繊維強化複合材料(CFRP)積層板の超高サイクル特有の疲労損傷進展挙動を明らかにし、損傷発生寿命を予測できる技術を構築した。これらの成果は非破壊検査製品や潮流発電ブレードの設計技術、ジェットエンジン部材の材料開発技術に応用されている。 |
山﨑 俊彦 ( Yamasaki Toshihiko)
東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授 (所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | ビッグ・マルチメディア・データを用いた「魅力工学」の先駆的研究 |
◇◇業績概要◇◇ 山﨑氏は画像・映像・テキスト・メタデータなどのビッグ・マルチメディア・データを用いた「魅力工学」という研究領域を新たに提唱し、機械学習・深層学習、統計処理、グラフ信号処理、最適化技術を駆使した先駆的な研究を行っている。人間は、人やモノ・コトに対して魅力を感じたり好みがあったりする。魅力とは個人の趣味・嗜好の問題でありそれを解析することはできないと考えられてきた。逆に魅力的な人・モノ・コトを作り上げるのも経験や勘、センスによるもので方法論的なアプローチは難しいとされてきた。「魅力工学」では魅力度に関連する数値を予測するだけでなく、どのパラメータがどの程度寄与してその数値に至っているかを工学的に明らかにし、さらにその魅力を向上・増強させるためにはどのようにしたらよいかまでをも支援する試みを行っている。これまでに、婚活・妊活、プレゼン、MOOC、不動産、テレビ・CM、SNS、観光、マーケティングなど様々な分野の企業と共同研究や産学連携に至っている。 |
山本 倫久 ( Yamamoto Michihisa)
東京大学大学院工学系研究科 講師
(所属は、2016年4月1日現在) |
|
受賞テーマ | 固体中の電子相関と量子力学的自由度の制御と伝送の研究 |
◇◇業績概要◇◇ 山本氏は、半導体微細構造やグラフェンにおける量子力学的な自由度や電子相関状態の精密な制御と検出の技術を確立し、それを基盤とする独自の方法によってこれまで伝送が不可能であった量子力学的な自由度を固体の電気回路で伝送、制御することに成功した。特に、情報伝送のチャネルとなる一次元量子細線における電子相関効果を、量子細線を2本並べた独創的な実験で明らかにし、電子の波動関数(電子波)の位相、単一電子の量子力学的なスピン情報を、一次元チャネルを介して長距離伝送させることに成功した。さらに、結晶性が高い2層グラフェンにおいて電子波の回転に相当する自由度“バレー”の流れを電気的に生成、検出することに成功した。これらは、いずれも世界初の快挙である。この成果は、原理的にエネルギー散逸のない量子回路を用いた量子情報処理や、スピントロニクスに次ぐ次世代の非電荷系低消費電力エレクトロニクスとして期待されるバレークトロニクスの新概念の創出、発展に大きく寄与するものである。 |