第15回 FFIT学術賞受賞者
千葉 大地 ( Chiba Daichi )
東京大学大学院工学系研究科 准教授 (所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 磁性の電界効果のデバイス応用に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ 千葉氏は、「一度作った磁石の性質は後から変えられない」という常識を覆す、数多くの先駆的かつ革新的な成果をあげてきた。第一の成果は、磁界や温度を変えることなく、磁性体の磁化方向や磁力を電界でリバーシブルにスイッチすること(電界誘起磁化ベクトル制御・電界誘起磁性相転移)に世界で初めて成功したことである。磁性を帯びた半導体だけでなく、すでに研究しつくされたかに思われている鉄・コバルト・ニッケルなど極めてポピュラーな磁性金属の潜在能力を大きく引き出すことに貢献した。また、当該技術を磁気記録の超省エネルギ書込み技術へ応用展開するという、今日こそ数多くの研究者が取り組みはじめているテーマにいち早く注目し、世界を牽引する成果を数多く示してきた。磁性をオン・オフするという取り組みは、磁気記録のみにとどまらず、その枠を超えた新たな応用展開にもつながる可能性が期待される点も注目される。 |
第15回 船井学術賞受賞者6名
伊藤 康一 ( Ito Koichi )
東北大学大学院情報科学研究科 助教 (所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 高精度画像マッチングに基づく生体認証に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ 伊藤氏は、画像の位相情報を用いた超高精度画像マッチング技術である「位相限定相関法」および各種高精度化手法に関する研究を行ってきた。その中で、画像間の類似性を高精度に評価するために「局所位相特徴」を考案するとともに、生体認証の各種問題に応用して、多大なインパクトを与えている。これまでに、指紋・顔‣交際・虹彩・掌紋・指関節紋・歯科Ⅹ線画像を用いた個人認証に局所位相特徴を応用し、公開されている評価用データベースを用いた実験により世界最高水準の認証性能を有することを実証している。また、スマートフォン向け手のひら認証アプリ、個人認証機能搭載ドアレバー、歯牙情報に基づく身元確認支援ソフトなどの実用化研究を行っている。
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岡崎 直観( Okazaki Naoaki )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授
(所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 自然言語処理による知識の自動獲得と社会観測に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ 自然言語処理、すなわち言葉を理解する計算機を真に実現するには、人間の持つ常識的な知識を大量の言語データから自動的に学習する研究が欠かせない。岡崎氏は、単語や句の分散表現の学習、関係知識や因果関係知識の自動獲得、言い換え知識の自動獲得、知識の柔軟な検索に関する研究で顕著な成果を上げた。さらにこうした研究をデータからの社会観測、すなわち人々の文脈や意見をデータから分析するという重要課題に応用し、東日本大震災後にTwitter上で拡散したデマ・誤情報の大規模解析、福島県の農産物の風評被害に関する大規模言語データ解析など、学際的研究を展開した。研究成果はソフトウェアやサービスとして実用化されただけでなく、データ駆動型ジャーナリズムなど、社会貢献の新しい形を切り拓いた。
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加地範匡 ( Kaji Noritada )
名古屋大学大学院工学研究科 准教授 (所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | ナノ空間制御による遺伝子情報抽出手法の開発と医療デバイスへの展開 |
◇◇業績概要◇◇ 加地氏はこれまで分子の自己組織化とナノテクノロジーに立脚することで、超微細加工技術によりナノメートルレベルで精密にサイズ・構造制御されたナノ構造体やナノマテリアルの作製法と、これらのナノ構造体により形成されるナノ空間を用いた超高速遺伝子情報抽出法であるDNA分離技術を確立し、そのデバイス化と高性能化を実現した。さらに遺伝子以外の生体情報抽出技術、具体的には疾病やがんの状態を判断する際の目安となるバイオマーカーを血液1滴から数分で診断するデバイス技術を確立するとともに臨床現場への展開を推進することで、医療デバイスとしての実用化を行った。この成果により、国民が自身の生体情報に基づいて簡便かつ科学的に健康状態を判断することが可能となり、国民の健康に資することが期待できる。
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関谷 毅 (Sekitani Tsuyoshi )
大阪大学産業科学研究所 教授
(所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 柔軟なシート型エレクトロニクスシステムの開発と応用 |
◇◇業績概要◇◇ 関谷氏は、「有機材料の柔らかさを活かしたフレキシブル有機トランジスタ」の作製プロセスを確立し、世界に先駆けて、その大規模集積化に成功した。この技術により、大面積センサや大面積アクチュエータを実現し、柔らかいエレクトロニクスの有用性を世界に先駆けて実証してきた。特に、世界で初めて伸縮自在な大面積集積回路、伸縮性有機ディスプレイの開発に成功するなど、大面積エレクトロニクス、伸縮エレクトロニクスという新しい分野を切り拓くなど、エレクトロニクス分野の重要な業績を挙げている。最近では、額に貼り付けるだけで脳状態を可視化できるウェアラブルセンサを開発し、認知症患者と健常者を見分けることに成功している。さらに東京電力㈱とともに、構造物ヘルスケア用大面積センサの開発に成功するなど、柔軟かつ大面積である利点を生かした新しいIoTセンサの開発とその社会実装を産業界と提携し進めている。
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田辺 克明 ( Tanabe Katsuaki )
京都大学大学院工学研究科 准教授 (所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 半導体接合技術およびそれを用いた新規高性能光電子デバイスの創出 |
◇◇業績概要◇◇ 田辺氏は、ウェハ接合技術の検討を行い、機械的、熱的に安定でかつ高導電性のGaAs/InP、GaAs/Si、および、InP/Si接合を得た。なお、化合物半導体とシリコンの直接接合によるオーミック接合の実現は、世界で初めてである。この技術を用いて高速大容量光通信・演算用途のシリコン基板上InAs/GaAs量子ドットレーザを作製し、シリコン上のあらゆる種類の半導体レーザとして世界最小の発振閾値電流密度、最高の発振温度、および、最高の特性温度を達成した。さらに、超高密度光集積回路の実現に向け、世界初のシリコン上ナノレーザとなる、シリコン基板上に集積されたInAs/GaAs量子ドット・フォトニック結晶ナノ共振器レーザの作製にも成功すると同時に、世界最小の発振閾値電力を達成している。また、格子不整合GaAs/InGaAsニ接合太陽電池、シリコン基板上のInGaAs太陽電池、GaAs/Ag/Si接合による表面プラズモン利用型太陽電池、AlGaAs/Siニ接合太陽電池、フレキシブルInAs/GaAs量子ドット太陽電池といった多岐に亘る新規太陽電池の作製に成功した。特に、GaAs/InGaAsニ接合太陽電池は世界初のウェハ接合による多接合太陽電池の実現である。 |
湯川 正裕 ( Yukawa Masahiro )
慶應義塾大学理工学部電子工学科 准教授
(所属は、2015年10月1日現在) |
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受賞テーマ | 新世代情報通信システムのための適応信号処理アルゴリズムの研究 |
◇◇業績概要◇◇ 適応信号処理は、情報通信システムを支える最も重要な基盤技術の一つとして、音響・通信・画像・レーダーを初めとする広範な目的に応用されている。適応アルゴリズムの高性能化への期待は、近年の目覚ましい情報通信技術の発達とともに高まる一方であるが、従来のアルゴリズムはいずれも、①収束の高速性、②雑音への頑健性、③低計算コスト性の間に深刻なトレードオフを抱えており、ブレークスルーを阻む大きな要因となっていた。 |