第14回 FFIT学術賞受賞者

第14回 船井学術賞船井哲良特別賞受賞者

杉浦 慎哉 ( Sugiura Shinya )
東京農工大学大学院工学研究院 准教授

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 次世代高速無線通信方式のための符号化および変復調アルゴリズムに関する研究

◇◇業績概要◇◇

無線通信の分野では周波数資源が限られている中、5年ごとに10倍以上の無線リンク通信速度の向上が求められているが、杉浦氏は次世代高速無線通信システムのための符号化及び変復調技術に従事し、この重要課題の解決手法となりうる技術を提案してきた。代表的成果として、シングルRF送信機で動作可能な高速レートマルチアンテナ伝送技術である空間変調方式があり、主要開発者として専門家に評価されている。特に提案技術はRF一系統で動作可能なためアンテナ数に対する実用上スケーラビリティが高い。したがって、移動端末や簡易基地局などにおいて現実的な大規模マルチアンテナ伝送が可能となり、これまで鋭意研究されてきたMIMO技術に新しい展開を与えるものといえる。


第14回 船井学術賞受賞者7名

青井 伸也 ( Aoi Shinya )
京都大学大学院工学研究科 講師

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ  生物の適応的歩行制御機序の解明と脚ロボット制御への応用

◇◇業績概要◇◇

青井氏は、頑健で適応的な歩行能力を有する脚ロボットの開発を目指し、生物の歩行制御機序の解明と脚ロボットへの応用を目指した研究を行ってきた。生物は多様な感覚情報を統合し、冗長多自由度な筋骨格系を巧みに操ることで適応的に歩行する。生物の運動制御における冗長性の問題はベルンシュタイン問題と呼ばれ、半世紀以上にわたる実験的・理論的考察にも関わらず未解決であったが、ヒトからムカデまで様々な生物を対象に、神経筋骨格系の計測に基づく解析的手法と数理モデルを用いた構成論的手法を統合し、運動学・筋シナジーと呼ばれる低次元構造や足の接地に関する感覚運動協調に着目することで、生物が冗長性の問題を解決し、適応的な歩行を実現する脳情報処理機能の解明に貢献してきた。そして得られる知見を工学的に具現化することで、適応機能を示す脚ロボットの開発に成功してきた。これらの成果は、生物学からロボット工学まで幅広い学術分野に貢献し、それぞれで高い評価を受けている。

今出  完 ( Imade Mamoru )
大阪大学大学院工学研究科 助教

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 大口径高品質GaNウエハを実現するNaフラックスポイントシード法の開発 

◇◇業績概要◇◇

窒化ガリウム(GaN)は、白色発光ダイオードだけでなく、電力損失がSiの1/10以下のパワーデバイスや、携帯電話の1000倍以上の通信速度・容量を有する超高速動作トランジスタ用材料として期待されている。しかしながら、Siのように無欠陥で大口径な単結晶成長は極めて困難であるため、大口径高品質GaNウエハは実現していない。今出氏は、Naフラックス法と呼ばれるGaN結晶液相成長法において、欠陥終端メカニズムを有するポイントシード法を発見し、世界で初めて無欠陥GaN単結晶を実現した。さらに、多数のGaN単結晶同士を欠陥の発生を抑制しながら結合できる結合成長法を開発し、短時間で大口径(4インチ)な低欠陥GaN単結晶の作製に世界で初めて成功した。これらの業績により、これまで実用化の障壁とされていた6インチサイズの低欠陥GaNウエハの実現が期待されており、我が国におけるGaNデバイス研究開発の加速に大きく貢献した。

大林  武( Obayashi Takeshi )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 遺伝子発現量データに基づく遺伝子機能予測手法の開発と大規模実装

◇◇業績概要◇◇

高等生物の半数以上の遺伝子機能は未知であり、また機能の判明している遺伝子でも多面的な機能の一部が判明しているにしか過ぎない。そのため遺伝子機能を大規模推定するための情報科学的アプローチが不可欠になる。大林氏はまず、モデル植物シロイヌナズナの網羅的遺伝子発現量解析を行い、従来発現変化を示さないと考えられてきた遺伝子を含めて、ほぼ全ての遺伝子が組織特異的なパターンを示すことを見いだした。発現プロファイルが類似している遺伝子(共発現遺伝子)の機能は類似しているため、この共発現遺伝子ペアを大規模に同定することで、遺伝子機能の網羅的推定を行うフレームワークを開発した。そこでは、類似性に基づく遺伝子機能分類に留まらず、環境特異性、進化保存性を取り込んだ遺伝子ネットワークとして多様な遺伝子機能を理解することを考案し、この手法を統計的有意性に基づく検証のみならず、実験系研究者が直接利用できるプラットフォーム(遺伝子共発現データーベースATTED-II, COXPRESdb)として実用化した。

佐藤 琢哉 (Satoh Takuya )
九州大学大学院理学研究院 准教授

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 超短光パルスを用いたマグノニクスの開拓

◇◇業績概要◇◇

磁性体中のスピン波を情報媒体として生成・制御・検出するマグノニクスが近年になって注目されるようになった。これまでスピン波はマイクロ波やスピン偏極電流によって生成されていたが、電極等の微細加工による空間的制約がスピン波の任意な制御の妨げとなっていた。佐藤氏はフェムト秒光パルスの偏光自由度を駆使し、光スポットを空間整形することで、スピン波の生成・伝播方向の制御・位相を含めた時間空間分解イメージングを成し遂げた。これらは3つとも世界初の快挙である。また、光パルスの任意の偏光状態を反磁性体のテラヘルツ・磁化振動モードとして1対1で転写し、そのモードを別の光パルスを用いて読み取ることに成功した。この成果は、光が持つ偏光自由度を用いた多重度・偏光メモリーの研究開発につながると期待される。このような光パルスを用いた超高速かつ非熱的なスピン制御によって、光マグノニクスという全く新しい分野を切り開き、新しい光磁気デバイスの可能性を見出した。

高見  剛 ( Takami Tsuyoshi )
大阪大学大学院理学研究科 助教

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 多自由度結合による環境調和型エレクトロニクス

◇◇業績概要◇◇

情報科学技術の進歩を担っている半導体エレクトロニクスは、電子の持つ電荷の自由度のみを用いて大発展を遂げてきた。高見氏は、電子に電荷以外の内部自由度(スピン、軌道)や外部自由度(フォノン、原子核)を結合させるとさらなる飛躍が期待できるとの着想のもと、電荷のみを用いていた従来のエレクトロニクスでは現れなかった新しい電子物性や機能を創出することを目的としている。
 おもな業績として、(1)スピン・軌道結合の熱電変換への役割、(2)スピン・フォノン結合によるスピンポーラロンの形成、(3)電子・水素原子核結合による水素代替エネルギーへの展開、があげられる。特に、今後ますます発展する情報科学の根幹を担うエネルギーの需要増大が見込まれる中、環境負荷の少ないエネルギー変換や貯蔵にも直結するエレクトロニクスに関する成果を上げた。

野﨑 隆行 ( Nozaki Takayuki )
産業技術総合研究所ナノスピントロニクス研究センター 主任研究員

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ 電界による高速スピン制御技術の確立とスピントロニクスデバイスへの応用

◇◇業績概要◇◇

野﨑氏は、金属磁石の磁化(電子スピン)を電界によって操作する新しい制御技術を確立し、スピントロニクスデバイスの超低駆動電力化に新たな道を拓いた。スピントロニクスの特徴は磁石の情報不揮発を利用した低待機電力性にあるが、一方で情報の操作に必要となる磁化の向きや運動の制御には大きな電流の通電を必要とし、駆動電力低減の弊害となっている。これに対して候補者は、数原子層まで超薄膜化した金属磁石の磁化の向きやすい方向(磁気異方性)を電界で制御する新しい技術開発に取り組み、実用上重要なトンネル磁気抵抗素子での実現に成功した。さらに、電界による高速スピン運動制御の実証にも世界で初めて成功し、電界スピントロニクスの実現に重要な進展をもたらした。
これらの成果は待機電力だけでなく駆動電力も省エネルギーな新規スピントロニクスデバイスの開発に寄与し、高速応答性・大容量性・高信頼性を兼ね備えたグリーンITの実現につながると期待される。

山内 利宏 ( Yamauchi Toshihiro )
岡山大学大学院自然科学研究科 准教授

(所属は、2014年10月1日現在)
受賞テーマ OS構成要素の独立化によるプロセス実行制御機構と安全なシステムソフトウェアに関する研究

◇◇業績概要◇◇

山内氏はオペレーティングシステム(OS)のプログラムの実行単位であるプロセスからプロセッサ割当内容を分離する機構を確立した。これにより、プロセスグループ単位でのサービスの性能保証を実現する新しい実行制御機構を実現し、かつプロセッサ資源を対象とするアクセス制御モデルを初めて提案した。この機構を研究開発し、プロセス実行速度を自由に調整できる方式を実現した。また、プロセス構成要素の新たな管理手法を示し、高速なプロセスの生成と削除の処理を実現した。これにより、従来OSのプロセス生成処理の限界を超える高速化を実現した。さらに、不正アクセスなどが起こった場合、攻撃者が侵入の痕跡を消去することを防止する仮想化技術を用いたログの確実な保護機構を提案し、攻撃内容を解析可能にする技術を初めて実現した。近年非常に多く悪用されているUse-After-Free脆弱性を既存のプログラムを修正することなく防止できる新しい手法も確立し、高い安全性を実現するシステムソフトウェアの構成法を開拓した。