第13回 FFIT学術賞受賞者
第13回 船井学術賞受賞者7名
浜屋 宏平 ( Hamaya Kohei)
九州大学 大学院システム情報科学研究院 准教授 (所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | 強磁性合金・半導体界面の超高品質形成技術の開拓と半導体スピンデバイス技術への 応用 |
◇◇業績概要◇◇ 浜屋氏は、次世代の情報通信機器における超低消費電力半導体素子として最有力視されている「スピントランジスタ」の基盤技術を開発した。具体的には、大規模集積回路(LSI)の根幹を支えるCMOS技術と整合する「シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)」というIV属元素系半導体材料に対して、高性能強磁性合金材料を原子層レベルで接合する新しい技術を開発し、スピントランジスタ専用の超高品質ソース・ドレイン構造の基礎を構築した。その結果、この高品質接合界面を介した高効率スピン注入・検出を半導体SiおよびGeにおいて世界で世界で初めて実証した。更に、半導体Si-電界効果トランジスタ構造に対して上記のスピン注入・検出技術を適用し、世界で初めて「スピン信号のゲート電圧制御」を室温で実証した。これらの成果は、スピントランジスタの実用化を指向した独創性の高い新技術であり、産業界との共同研究開発においても大きく貢献している。 |
安藤 和也 ( Ando Kazuya )
慶應義塾大学理工学部 専任講師 (所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | 動的スピン流生成現象の開拓とスピントロニクスへの応用 |
◇◇業績概要◇◇ 電子の電荷自由度と電流だけでは実現困難なデバイス機能創出の指導原理として、スピン自由度とスピン流に基づくスピントロニクスがある。安藤氏は、スピン流と磁化ダイナミクスとの相関現象という新境地を切り拓くことでスピン流生成・検出の物理・技術体系を明らかにし、近代スピントロニクスの基盤を構築した。特に著しい業績として、磁化ダイナミクスからのスピン流生成「動的スピン流生成」手法の確立がある。これにより歴史上初めてあらゆる物質・環境中のスピン流研究のルートが示され、シリコン中のスピンホール効果定量へと繋がったことで、世界中の研究者に衝撃を与えた。また動的スピン流生成を絶縁体へと応用することで非線形スピントロニクス機能を見出し、更にこれまでの常識を覆す導電性高分子中の巨大スピン流-電流変換の発見はスピン軌道散乱増幅による新時代のスピントロニクスへの扉を開いた。
|
伊野 文彦( Ino Fumihiko )
大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授
(所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | GPUにおける細粒度サイクル共有技術とその応用に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ 伊野氏はGPU(Graphics Processing Unit)におけるミリ秒単位(刹那)の遊休時間を遠隔から活用し、ユーザの対話的な操作を妨げることなく大量の独立タスクを高速処理するための細粒度サイクル共有技術を確立した。本来、GPUの用途は画面表示であり、その設計は共有を考慮していない。従って、遠隔から投入された計算がGPUを専有してしまい、画面表示の滞りが共有の実用化を妨げていた。そこで伊野氏はGPUプログラミングモデルと親和性の高い強調マルチタスク技術を開発し、滑らかな画面表示と計算の高速化を実現した。また、遊休時間の長さの分布を数理的にモデル化し、高い性能を期待できる遊休GPUを選択する手法を開発した。これらにより、単一ユーザに専有されてきたGPUを、ネットワーク上の計算アクセラレータとして活用する道を拓いた。また、バイオ情報学や医用画像工学への応用により、企業や大学における遊休GPUの潜在的な計算性能を定量的に明らかにした。
|
金井 俊光 ( Kanai Toshimitsu )
横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門 准教授
(所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | 高品質チューナブルコロイドフォトニック結晶の作製と応用に関する研究 |
◇◇業績概要◇◇ フォトニック結晶は光の半導体とも呼ばれ、情報通信分野や映像分野などに革命をもたらす材料として注目されている。金井氏は安価で大量生産が期待でき、また従来のハードなフォトニック結晶では難しいチューニング特性を有した有機系コロイドフォトニック結晶を、大面積で高品質で作製できる画期的な方法を確立した。マイクロ流路内にコロイド分散液をパルス流動させることにより、c㎡サイズの単結晶コロイド結晶を形成させ、引き続き紫外線照射による光重合を行うことにより、大面積単結晶体をゲルフィルム内に固定化するプロセスを確立した。本結晶は外場や外部刺激により、フォトニックバンドギャップ周波数を大幅にチューニングすることができ、ブラッグ反射色による発色をフルカラーで制御できる。またマイクロ流体技術と光重合プロセスを組み合わせることにより、球状やカプセル状のチューナブルコロイドフォトニック結晶の作製にも成功し、形状由来の新しい応用を見出した。
|
河野 行雄 ( Kawano Yukio )
東京工業大学・量子ナノエレクトロニクス研究センター 准教授
(所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | ナノ構造を用いたテラヘルツ電磁波の画像化技術の開拓と応用 |
◇◇業績概要◇◇ テラヘルツ(THz)電磁波の検出・イメージング技術は、基礎科学から医療・産業応用に至る幅広い分野での活用が期待されている。ところが、従来よく使用される技術(ボロメータやレンズなど)では感度が低く、空間分解能が波長程度に限定されるという問題があった。河野氏は、低次元ナノ電子材料が持つ特徴を活かした新しいTHz計測技術開拓、並びに電子材料・デバイス研究への応用を行った。具体的には以下に要約される。 |
木寺 正平 ( Kidera Shohei )
電気通信大学 大学院情報理工学研究科 助教
(所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | 超広帯域レーダを用いた超分解能・不可視領域立体像再構成法の研究 |
◇◇業績概要◇◇ 木寺氏は、超広帯域電磁波を用いた近距離センシング分野において、全く新しい画像化原理を構築し、再現精度、空間分解能、処理時間において従来性能を超える革新的立体像再構成手法を提案してきた。更に多重散乱波を積極的に用いることで、従来では再現不可能であった領域(影領域)を高精度に推定する独自の手法を提案し、その有効性を実証してきた。卓越した同画像化性能は、国内外の当該分野で注目され、これを基盤とした研究開発が国内外の複数の研究機関で進められている。更に木寺氏は、誘電体内部画像化問題にも本手法の原理を導入し、独自の誘電率推定法を併用することで、超分解能・精度が達成されることを実証している。上記手法は多様な波長帯域に拡張可能であり、災害救助ロボットセンサ、非信襲生体計測及び非破壊計測等の幅広い応用分野で革新的計測技術を創出することが期待されている。 |
林 将光 ( Hayashi Masamitsu )
独立行政法人物質・材料研究機構 主任研究員
(所属は、2013年10月1日現在) |
|
受賞テーマ | 省エネルギースピントロニクス素子開発に向けた革新的磁化制御技術の確立 |
◇◇業績概要◇◇ 林氏はこれまでに、スピントルクと呼ばれる電子力学的効果を利用して、微細化した磁性ナノ構造における磁化構造を電流で制御する基盤技術を確立した。磁壁移動メモリと呼ばれるストレージクラス個体メモリの開発を目指した研究では、スピントルク効果を利用して強磁性体量子細線中の磁壁の位置を電流パルスを使って操作し、その基本動作を世界に先駆けて実証するなどの大きな成果を挙げた。さらに、スピン・軌道相互作用が大きい金属膜を組み合わせた磁性ナノヘテロ構造において、膜厚がわずか数原子層厚(~1nm以下)の非磁性金属膜に電流を流すことで、大きなスピンホール効果が発現し、隣接する強磁性層の磁化を低電流で反転できることを見出した。このような電子のスピン・軌道相互作用を利用した新たな磁化制御技術は、スピンオービトロニクスと呼ばれるスピントロニクスの次の展開として期待されており、林氏はその開拓に大きく貢献した。 |