第12回 FFIT学術賞受賞者

第12回 船井学術賞船井哲良特別賞受賞者

木村  崇 ( Kimura Takashi )
九州大学稲盛フロンティア研究センター  教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ 革新的純スピン流の制御技術の開発と高性能スピンデバイスへの応用

◇◇業績概要◇◇

木村氏は積層型が主流であったスピンデバイスの素子構造を面内型に展開し、電気を流さずスピン角運動量のみを伝える電子の流れ“純スピン流”を生成する技術をいち早く確立した。更にスピン吸収効果に代表される革新的な高効率純スピン流制御技術を次々と開発し、それらの要素技術を基盤として、純スピン流によるナノ磁性体の磁化反転、白金細線を用いた室温スピンホール効果の電気的検出など、今後のスピントロニクスの展開において、極めて重要となる基礎物理現象の観測に世界で初めて成功した。更にプレーナー構造の柔軟性を最大限利用した外に類を見ない高機能スピンデバイスを次々に提案・実証すると共に、高スピン偏極ホイスラー合金による純スピン流の生成効率の飛躍的改善、積層型と面内型を組み合わせた新奇な純スピン流生成構造による巨大スピン流の生成などにも成功しており、純スピン流の実用化に向けても大きく貢献した。


第12回 船井学術賞受賞者8名

稲邑 哲也 ( Inamura Tetsunari)
国立情報学研究所 准教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ  身体運動と言語を用いた人間ロボット間の適応的社会的インタラクションシステムの
 研究

◇◇業績概要◇◇

ロボットが人間の活動する日常生活空間で共に活動し、ユーザからの指示に従って的確にタスクを実行するには、人間との自然な対話機能、未知の環境への適応的な対応など、数多くの機能が必要となる。稲邑氏はこのような知的な行動実現の基幹となっているのは、他者の行動を模倣し対話する能力であるという点に着目し、ロボットに人間の行動を模倣させながら、曖昧性や不確実性に遭遇した時に対話でその問題に対応し、経験から学習する知能システムの基盤を構築してきた。この基盤システムの応用例として、スポーツの初心者に対してロボットが実演と言語による説明を行いインストラクターとして接するシステムの開発や、インターネット上で身体運動を伴った言語的インタラクション実験に誰もが簡単に参加することのできるシステムを通じたスキル学習などの研究を発展させている。

岩瀬 英治 ( Iwase Eiji )
早稲田大学基幹理工学部 専任講師

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ マイクロ3次元構造体の形成技術とそのデバイス応用 

◇◇業績概要◇◇

岩瀬氏は、数μm~数百μmサイズのMEMSデバイスに関して、磁場の力を用いて2次元の展開図構造を折り紙のように起き上げる手法、異なる基板で作成したマイクロデバイスを積み木のように組み立てる手法によるマイクロ3次元構造体の形成技術を提案し、実現した。これは通常のMEMSプロセスは2次元精密加工が得意であるのに対し、その利点を生かしつつ微小な3次元構造体の形成する技術を実現したものである。また、理論的な基礎研究のみならずデバイスなどの応用研究まで行っており、幅広い成果を挙げている。

大友 明( Ohtomo Akira )
東京工業大学大学院理工学研究科 教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ 透明酸化物半導体界面の高品質化と量子化伝導に関する研究

◇◇業績概要◇◇

大友氏は、ZnOやSrTiO₃などのありふれた金属酸化物を用いて、極めて高品質の透明酸化物半導体界面を作製し、量子伝導現象を観測した。従来、GaAsやSiなどのクリーンな半導体界面だけで量子ホール効果のような量子伝導の実現が可能であり、金属酸化物のようなダーティな系では量子伝導が実現するとは全く予想もされていなかった。大友氏の行った研究は、酸化物の多様な機能を活用する新しいエレクトロニクス誕生への貴重なマイルストーンであると世界的に広く認知されている。また、このようなクリーンな界面を作製するために、大友氏は材料開発や薄膜技術の向上に非常に多大な貢献をしている。さらに、界面に電子を閉じ込め2次元電子を形成する原理が、通常の半導体ヘテロ構造とは全く異なっており、酸化物に特徴的な新原理を開拓した。

鹿島 久嗣 ( Kashima Hisashi )
東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ ビッグデータの多様性に立ち向かう機械学習手法の研究

◇◇業績概要◇◇

ビッグデータのもつ多様性に対処するための機械学習に基づく予測手法を開発したことが鹿島氏の主要な業績である。ソーシャルネットワークや化合物などの複雑なネットワーク構造を有するデータ、加速度センサー等のセンサー時系列データ、ソーシャルメディアなど人間の手によって生み出される属人生の高いデータなど、世の中は多種多様なデータで溢れている。これまでの解析手法が苦手としていたネットワーク構造を有するデータ(データ形式の多様性)に対する予測手法を予測手法を鹿島氏は大きく発展させた。また最近では人間の個性や不確実性等の多様性[人間の多様性)を扱う予測手法に関する数々の業績を挙げている。

下馬場 朋禄 ( Shimobaba Tomoyoshi )
千葉大学大学院工学研究科 准教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ コンピュータホログラフィによる3次元動画像・撮像に関する研究

◇◇業績概要◇◇

コンピュータホログラフィを用いれば理論的には3次元動画表示(3次元ディスプレイ)や3次元構造の動的計測(3次元顕微鏡)が可能になる。しかしホログラフィ方式の3次元ディスプレイは、ホログラム生成に要する計算時間が膨大であり実用化へのネックとなっている。下馬場氏はコンピュータホログラフィの実時間処理に向けたアルゴリズムや高速計算ハードウェアの研究、及び実際の光学系と組み合わせた3次元ディスプレイと顕微鏡システムの構築を行っている。これまでに3種類のホログラム高速計算アルゴリズムを開発、従来のものよりも1000倍以上の性能を達成。従来の手法では不可能だと思われた10万点を超える複雑な形状の3次元物体データから数1000万画素のホログラムをリアルタイム生成に成功した。また撮影物を任意の奥行き距離で広い観察領域・高分解能で複数同時にリアルタイム再生できる、新しいコンセプトの顕微鏡システムを開発した。

坂東 幸浩 ( Bandou Yukihiro )
NTTアドバンステクノロジ㈱アプリケーションソリューション事業本部 担当課長

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ 高臨場感通信の実現に向けたナチュラルクオリティ映像符号化に関する先駆的研究

◇◇業績概要◇◇

高臨場感通信を実現する上で高性能な符号化方法の実現は欠くことができないものであり、その実現が強く望まれている。坂東氏は高画質化の要素として、時間解像度、ビット深度、空間解像度の3つに着目。まず映像の高画質化における時間解像度の重要性を実証すると共に、時間解像度を高めた高フレームレート映像の符号化を世界に先駆け検討し、高フレームレート映像の符号化に対する理論的指針を与えた。また、画素あたりの表現ビット長を高めた高ビット深度映像に対する符号化検討において、従来手法を大幅に上回る符号化効率を実現。さらに、空間解像度を高めた高精細映像に対して、直交変換符号化の理論的設計指針を量子情報理論に基づく数理的考察により解明すると共に、高能率・高速なスケーラブル符号化を検討し、4K映像対応SVCリアルタイムソフトウェアコーデックの開発に世界で初めて成功した。

平田 晃正 ( Hirata Akimasa )
名古屋工業大学大学院工学研究科 准教授

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ 人体に対する高速・高精度な電磁界解析アルゴリズムの開発と医療応用

◇◇業績概要◇◇

人体に対する電気刺激療法において、対象部位を効率的に刺激する技術は十分確立されていない。これは、人体は多数の組織から構成され、かつ複雑に入り組んでいることによるものであり、ゆえに中枢神経による電気刺激閾値は十分特定されていなかった。平田氏は医用画像に基づき開発した精緻な人体モデルに対して、刺激装置により対象部位に誘導される電流を高速かつ高精度に推定するための電磁界解析アルゴリズムを開発した。この技術により、刺激対象となる神経部位における閾値を推定可能となった。その結果、患者個々人で大きく異なる組織構造を考慮し、刺激部位に誘導される電流の最適化が可能となった。以上の成果は、多数ある電気刺激療法のオーダーメイド化、在宅化へのパラダイムシフトに多大な貢献をするものである。

古海 誓一 ( Furumi Seiichi )
独立行政法人物質・材料研究機構 主幹研究員

(所属は、2012年10月1日現在)
受賞テーマ  有機フォトニック結晶の自己組織化と次世代情報通信に向けた高密度レーザーへの
 展開

◇◇業績概要◇◇

周期構造を持った透明な媒質の中に、その繰返し周期と同じ程度の波長を有する光が入射すると、光と媒質の相互作用が極めて大きくなることがある。これは、フォトニック結晶のフォトニックバンドギャップが起因している。多くのフォトニック結晶は、半導体デバイス作製のために開発された微細加工技術を駆使してトップダウン的に作製されているが、その製造プロセスは煩雑なので、簡便に得ることができない。そこで古海氏は有機材料がボトムアップ的に形成する数百nmの周期配列構造に着目して、フォトニックバンドギャップによるレーザー発振に関する研究を遂行した。キラル液晶とコロイド結晶の2種類の有機フォトニック結晶を取り扱い、ソフトマテリアルである液晶やコロイド微粒子の特徴を最大限引き出すことで、レーザーの外部制御、円偏光レーザー、波長可変レーザー、フレキシブルレーザー、マイクロパターンレーザーといった次世代情報通信に向けた新しい高密度レーザーの作製に成功することができた。