第11回 FFIT学術賞受賞者

第11回 船井学術賞船井哲良特別賞受賞者

小森 雅晴 (Komori Masaharu )
京都大学大学院工学研究科  准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 精密回転伝達機構の普遍的特性解明と精密計測技術、変則技術の開発

◇◇業績概要◇◇

精密回転伝達機構に用いる歯車の普遍的な振動特性について長きに渡り解明することができなかったが、小森氏は歯車歯面の三次元幾何曲面の表現方法に着目し、これを量と形に分解して表現する独創的手法を導入した結果、従来のように量と形を混在して扱う場合には不可能であった歯車振動の定式化に成功し、どのような歯車にも共通してあてはまる普遍的な振動特性を議論することが可能になった。また、歯車振動の大きさは、弾性変形する幾何曲面の凸の量(量的要素)と質的要素の積で表現できることを明らかにし、複雑現象と考えられてきた歯車振動においてシンプルな関係が存在することを明らかにした。この成果は歯車振動を抑えるための設計指針を明確に示すものであり、経験や勘に頼らない理論的裏付けのある設計に貢献した。


第11回 船井学術賞受賞者7名

杉山  将 ( Sugiyama Masashi)
東京工業大学大学院情報理工学研究科 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 確率密度比に基づく統計的機械学習の新手法の開発とその実世界応用

◇◇業績概要◇◇

コンピュータによる知識の自動発見や学習能力は複雑なデータに対して学習の質はまだ十分でなく、より高度な知的情報処理技術が切望されている。杉山氏はこの課題に対し、「確率密度比推定」を基盤とする独自のデータ解析パラダイムを提唱した。確率密度比とは確率密度関数の比の関数であり、それを直接推定することにより、困難な確率分布の直接的な推定を回避しつつ、これまで困難とされていた高次元かつ複雑な確率構造を持つ情報源に対しても、精度良く学習を行うことが可能となった。杉山氏はこの確率密度比推定パラダイムによる機械学習法を独自に考案し、密度比推定アルゴリズムの開発、密度比推定の数理的性質の解明、更には音声・画像・脳波・金融・ロボット・自然言語・生命情報などの様々な実問題への応用研究を行い、有効性を実証した。

岡田 健一 ( Okada Kenichi )
東京工業大学大学院理工学研究科 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ リコンフィギュラブルアナログ回路設計技術の研究 

◇◇業績概要◇◇

岡田氏は、これまで個別の用途や機能ごとに設計されてきたアナログ回路の設計技術において、柔軟な機能可変を実現するための先駆的研究を行い、リコンフィギュラブルアナログ回路という新しい分野を切り拓いた。リコンフィギュラブルアナログ回路は、製造後に機能を変更することのできるアナログ回路であり、柔軟に機能の変更や追加を行うことができる汎用性を備えている。通常、集積回路として実現されたアナログ回路は設計時にその機能や特性が定まるが、調整機構を自身に備えることにより、製造後においても回路に可変性を持たせることが可能である。岡田氏の研究成果は、あらゆる通信方式に対応可能な無線機等、様々なアナログ回路に適用可能なものであり、応用範囲も広い。学術的にも産業的にも今後の更なる発展が期待できる。

柳田 剛( Yanagida Takeshi )
大阪大学産業科学研究所 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 自己組織化ナノワイヤを用いた超Tbit級不揮発性メモリ素子に関する研究

◇◇業績概要◇◇

電子デバイス・モバイルデバイス情報通信量の増大化・高性能化に伴い、不揮発性メモリ素子の大容量化が大きな技術課題となっている。その次世代超Tbit級不揮発性メモリの本命として、絶縁体の金属酸化物を電極で挟み込んだ極めてシンプルな抵抗変化素子が大きな注目を集めている。しかしながら、メモリ素子集積化の際に必ず問題となる極微ナノ領域における素子動作特性とその基本的な動作メカニズムが不明なために、抵抗変化素子の展開には大きな障壁が存在していた。柳田氏の研究は、2-10nmのサイズに制御可能な自己組織化ナノワイヤ構造体を用いた極めて独創的なアプローチで、抵抗変化不揮発性メモリ素子の最も本質的な問題を解決することに成功した。

住井 英二郎 ( Sumii Eijiro )
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 環境双模倣によるプログラム等価性証明手法

◇◇業績概要◇◇

住井氏は、再帰・高階関数・データ抽象・並行計算などの高度な機能を備えた言語における「プログラム等価性」の一般的証明手法を、世界で初めて確立した。プログラム等価性は情報処理システムの安全性や機能的正当性に直結する重要な問題であり、1960年代から現在に至るまで盛んに研究されているが、住井氏のような証明手法の確立は非常に難しいと考えられていた。住井氏の証明手法は健全・完全かつ一般的・初等的で、プログラム理論におけるブレークスルーとして、コンピュータサイエンス最高峰の論文誌Journal of the ACMなどに採録される等、極めて高い国際的評価を得ている。

水口 将輝 ( Mizuguchi Masaki )
東北大学金属材料研究所 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 磁性ナノ超構造の創製とスピントロニクスデバイスへの応用

◇◇業績概要◇◇

水口氏は、原子レベルで表面・界面形態を制御した金属・半導体・酸化物単結晶の組み合わせにより強磁性金属ナノ超構造を創製し、それらが呈する様々な機能性を巧みに利用してスピントロニクスデバイスへの応用研究を展開することにより、多くの成果を挙げてきた。特に水口氏が得意とする分子線エピタキシー法およびスパッタリング法による高度な結晶成長技術と表面・界面制御技術を駆使し、新機能構造体開発あるいは新規材料開発を行うと同時に、様々な手法を用いてそれらの特性評価及び付随する物理現象の解明に関する研究を行ってきた。その結果、表面修飾法利用したナノ超構造体における高い磁気抵抗効果の発見、トンネル磁気抵抗素子の表面構造直接観察及び磁気輸送特性との相関の解明、エピタキシャル成長技術に立脚した新規磁性材料の人口創製など、磁性材料・スピントロニクス分野において一連の重要な成果を挙げた。

前田 雄介 ( Maeda Yusuke )
横浜国立大学大学院工学研究院 准教授

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ ロボットの物体ハンドリングの基礎理論および応用技術開発に対する貢献

◇◇業績概要◇◇

前田氏はロボットによる物体ハンドリングについて、その基礎となるマニピュレーション理論の発展のほか、ロボット教示という単体ロボットレベルでの応用技術開発、更に複数ロボットからなる組立システムの新しいアーキテクチャの提案というシステムレベルの技術提案にいたるまで、幅広いレベルで研究業績をあげており、かつ、それぞれのレベルでいずれも高い評価を受けている。

石鍋 隆宏 ( Ishinabe Takahiro )
東北大学大学院工学研究科 助教

(所属は、2011年10月1日現在)
受賞テーマ 液晶を用いた偏光制御技術の確立と低電力・高機能ディスプレイへの応用に関する研究

◇◇業績概要◇◇

石鍋氏は液晶デバイスの高性能化において最も重要とされる偏光の精密な解析理論と制御技術を確立し、液晶ディスプレイの光学設計技術を学術的に体系化すると共に反射型フルカラー液晶ディスプレイ、フィールドシーケンシャルカラーディスプレイ等の高性能液晶ディスプレイの実現とその実用化に貢献し、現在のディスプレイ技術の発展に不可欠な数多くの成果を収めてきた。またこの理論を応用した液晶材料の物性パラメータの高精度測定手法を考案し、計算機による液晶デバイスの定量評価技術を確立した。この偏光制御技術は現在の液晶ディスプレイの光学設計技術の基盤となっており、液晶ディスプレイの高性能化に大きく貢献している。