第4回 FFIT学術賞受賞者

第4回 船井学術賞船井哲良特別賞受賞者

松本 眞 ( Makoto Matsumoto )
広島大学大学院理学研究科 教授

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ 擬似乱数発生法の開発と評価法の研究及び普及活動

◇◇業績概要◇◇

松本眞氏は当時の指導学生西村氏とともに1998年Mersenne Twister (MT)という高性能擬似乱数発生法を提唱し、世界的に強い反響を受けた。この発生法は有限体や数の幾何などの現代数学理論を用い、現在の計算機アーキテクチャにおいて高速に計算可能な演算のみで擬似乱数を発生するもので、速度や周期などで従来の技術を圧倒するものであった。
現在世界的に普及しており、インターネット検索すると2万件以上ヒットする。同氏はインターネット上でMTのソースコードを配布しており、あらゆる言語での実装が同氏のホームページから入手できる。その後も、独立なMTを動的に生成する並列計算機用擬似乱数Dynamic Creatorの開発、符号理論を用いた擬似乱数の非統計的検定法の開発、MTの初期化法の改良といった研究を精力的に続けている。近年カナダのグループと共同でMTの後継機種を開発中である。 

金谷 健一 ( Kenichi Kanatani )
岡山大学
工学部情報工学科 教授

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ コンピュータビジョンの数理的方法の提唱

◇◇業績概要◇◇

コンピュータビジョンとはカメラから入力した画像を計算機で解析して、シーンの3次元状況(物体の識別、位置や3次元形状など)を知る研究であり、1960年代に米国で始まった。当初は人工知能の一部と位置づけられ、発見的知識とプログラミング(if-then-else構造)の組み合わせが中心であった。そして理想化された状況(「積み木世界」を呼ばれた)でのデモが注目を集め、研究が急速に拡大した。しかし、実シーンの解析は困難を極めた。
それに対して金谷教授は、米国Maryland大学在住中にカメラの撮像の幾何学、不変量や群表現論に基づく物体の幾何学的構造解析、誤差の統計解析を組み合わせた数理的方法をほぼ単独で提唱した。これは当初は反発を受けながら、英国Oxford大学に飛び火して、そこから急速に世界中に拡散し、約10年間の間に世界の研究を一変させるほど影響を与えた。この事実は国内では意外と認知されていないが、海外では周知の事実である。 

西尾 章治郎 ( Syojiro Nishio )
大阪大学大学院 情報科学研究科
塚本 昌彦 ( Masahiko Tsukamoto )
 神戸大学 工学部
原 隆浩 ( Takahiro Hara )
大阪大学大学院 情報科学研究科

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ 先進ネットワーク環境におけるデータベースの新技術開拓に関する研究

◇◇業績概要◇◇

グループ代表者らは、データベース分野において、長期に亘り常に先駆的な研究開発を展開している。特に、広帯域ネットワークやモバイルネットワーク、放送通信など、急速に発展するネットワーク技術にいち早く注目し、これらの特性を考慮した分散データベース技術について新たなパラダイムを展開する研究を行なっている。
具体的には、近年のネットワークの広帯域化に着目し、データベースをネットワーク上で移動させるという斬新な概念「データベース移動」を提唱し、データベース移動に基づく分散データベースシステムを構築している。さらに、モバイルネットワークやその進化形であるアドホックネットワークやウェアラブルコンピューティング環境において、非常に独創的なデータ共有基盤を確立している。また、放送通信を用いる高度分散データベース環境において、情報フィルタリングや放送スケジューリング・キャッシングなどに関する基盤技術を考案している。
これらの研究成果は国内だけではなく、国際的にも高く評価され、新たな研究分野を開拓した先駆的研究として認識されている。 

寅市 和男 ( Kazuo Toraichi )
筑波大学先端学際領域研究センター 教授

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ フルーエンシ情報理論とそのマルチメディアへの応用に関する研究

◇◇業績概要◇◇

1980年までに寅市教授によって体系付けられたフルーエンシ情報理論は、シャノンのサンプリング定理、ウェーブレット変換を包含する独自の理論であり、ディジタル信号を適応的且つ柔軟にアナログ信号に対応付けて変換する技術に結びついている。この成果は現代システム制御理論で著名なR.E.Kalman教授により最初に高く評価され、以降、当該理論はフルーエンシ理論と名付けられ、それらを搭載した装置はフルーエンシマルチメディアシステムと呼ばれている。それがマルチメディアにおける信号変換の統一的符号化、復号化技術として確立され、各種マルチメディアシステムへ応用されている。
特に、半導体メーカーと共同で開発したオーディオ装置に応用されているDACのLSIは、国内外のオーディオメーカで採用され、Golden Sound Award他世界に於ける35の賞に輝いており、それはFluencyオーディオと呼ばれるに至っている。
印刷物への応用に関しては画像の関数近似により、高精細、スケーラブルに拡大、縮小が行え、印刷革命が可能な技術として、日本印刷学会論文賞、印刷朝陽会賞を受賞している。また、TV分野においても通常のNTSC信号をハイビジョン並みの高画質な映像に変換することが可能で、信号処理装置は実用段階にある。 

山浦 弘 ( Hiroshi Yamaura )
東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻 教授

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ 情報機器の高性能化に関する研究

◇◇業績概要◇◇

(1)位置決め機構の制振アクセス制御に関する研究
磁気ディスク装置のヘッド位置決め機構のアクセス制御の高速化・高精度化に必要な、残留振動を生じない制振アクセス制御の原理を明らかにするとともに、最適な入力・軌道の導出法を示している。また、しばしば実機で問題となる固有振動数変動や高次振動モードに対する対策も提案している。
(2)磁気ヘッド位置決め機構のサーボ帯域の向上に関する研究
広サーボ帯域を実現できる磁気ヘッド位置決め機構、センサを使わない振動モードの安定化手法および広サーボ帯域を実現できる制御系設計法を提案している。
(3)紙搬送機構における紙搬送特性の高精度予測
ゴムローラと鋼ローラを用いた紙搬送機構に対して、比較的短い計算時間により高精度に紙搬送特性を予測できる手法を開発している。
また、共同研究者として磁気ディスク装置のヘッドスライダ機構、流体軸受スピンドルの研究なども行なっている。何れの業績も実際の情報機器の設計、制御に既に適用されているか、今後の適用が期待されているものであり、情報機器の高性能化に重要な役割を果たしつつある。 

徳山 豪 ( Takeshi Tokuyama )
東北大学大学院情報科学研究科 教授

(所属は、2005年3月1日現在)
受賞テーマ 計算幾何学の理論研究と、データマイニングにおける先駆的研究への応用

◇◇業績概要◇◇

徳山氏は計算幾何学(幾何学データ処理理論)を中心とした計算理論と、その応用において高い成果を挙げている。日本の計算理論を代表する存在として、計算理論のフラグシップ国際会議で質の高い論文発表を続け、数学的に洗練された独創的な新技法を数多く提案しており、理論のみの業績でも学術振興への貢献は非常に大きい。
しかしながら、徳山氏の最大の特徴は、企業に在籍していた経験から生まれた、現実問題に根付いた理論研究スタイルであり、計算幾何学を中心とした計算理論の技法の多くの適用分野の開拓が最大の貢献である。
特に、近年の情報処理において重要分野となっているデータマイニングにおいては、世界に先駆けて計算幾何学を応用した技法の導入を行なった。1996年のACM-SIGMOD国際会議での成果は「データマイニング分野で初めての理論計算幾何学の本格利用」として注目され、現在世界で活発に行なわれているアルゴリズム理論の研究者によるデータマイニングへの取り組みの国際的な先駆けとなった。この研究では、徳山氏が導入した独自のパラメトリックな計算幾何学の新しい枠組みで開発された手法がベースになっており、アルゴリズムの先端理論での独創性が実用分野でのブレークスルーに結びつくことを示す事により、日本の理論計算機科学分野全体の活性化に繋がった。