第3回 FFIT振興賞受賞者


第3回 船井情報科学振興賞受賞者6件

入江 満 ( Mitsuru Irie)
大阪産業大学工学部電気電子工学科
 助教授

(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ 光ディスク(DVD)における高密度記録方式の標準化とその環境信頼性に関する研究

◇◇業績概要◇◇

今日、高密度光ディスク”DVD(Digetal Versatile Disc)”は、デジタルマルチメディア時代の大容量ストレージメディアとして確固たる国際的地位を確立した。この背景には、DVDがデファクト規格として幅広く公開され、光ディスク仕様の互換性を確保するという標準化が行なわれたことがある。候補者はDVDの誕生(1996年)よりデファクト規格策定、特に記録型DVDの主流である追記型DVD(DVD-R)、書換え型DVD(DVD-RW)の物理規格策定に携わり、1999年にはDVD-RW、2000年にはDVD-Rを業界標準規格として制定に貢献した。 さらに、DVD規格の国際標準化活動を行い、DVD-R規格をISO規格として制定すると共に、DVD規格の認証のためのDVD規格管理会社の設立・運営にも参画してきた。その後、DVDの光学素子の研究に従事しながら、DVD-ROMのJIS規格改定(2003年)を行なう一方、ユーザの立場からの光ディスクの環境信頼特性評価の研究にも着手している。2003年には、DVD規格全般にわたる成書も出版するなど、候補者の規格策定者の見識とユーザの視点に立った幅広い光ディスクの研究活動は高く評価されている。

木村 浩 ( Hiroshi Kimura )
電気通信大学情報システム学研究科
 助教授

(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ 自律不整地適応可能な四脚ロボットの開発

◇◇業績概要◇◇

ホンダの二足ロボットが注目を集めるなど、歩行ロボットの実用化が近いと一般には思われているが、路面のちょっとした凹凸に適応できないなど、自律的な歩行生成と制御は依然として歩行ロボット実用化への大きな壁となっている。これは、ロボットと環境の厳密なモデルに基づき運動の計画と制御を別々に行なう従来の手法では、多様な外部環境への自律適応を実現することが非常に困難であるためである これに対して、本研究では、神経‐筋骨格系と環境との相互作用により力学系の創発として運動の生成・適応が発生するという考えに基づき、生物学などで提唱されたパターン発生器(CPG:Central Pattern Generator)と反射からなる簡単でかつ自律的な適応能力を持つ歩行生成・制御系を新たに提案した。さらに、このような生物規範型の手法が有効に働く四脚ロボットの機構を開発し、従来概念的であった手法がロボットにおいて実現可能であることを世界で始めて示すことができた。現在、独自に開発したバッテリを搭載した自立型の四脚ロボットにより屋内で1m/s(3.6km/h)での自律走行や屋外(大学キャンパス内)で0.5m/s(1.8km/h)での自律不整地動歩行が実現されている。

山本 透 ( Toru Yamamoto )
広島大学大学院教育学研究科技術・情報教育学講座
助教授

(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ PID制御系設計の高度化と知能化に関する研究

◇◇業績概要◇◇

適応制御やロバスト制御などのアドバンスト制御やソフトコンピューティング手法を用いたインテリジェント制御に関する研究が進められる中で、プロセス制御やメカニカルシステムなどの実システムにおいては、制御器の構造が単純であり、制御器に含まれるパラメータの持つ物理的な意味が明確であるなどの理由により、今なおPID制御法が広く用いられている。このような現状に着目し、アドバンスト制御法やインテリジェント制御法を、PID制御器をベースとした形で実現することは、企業等の産業社会に対し有用であると確信し、PID制御系設計の高度化と知能化に関する研究を進めてきた。 制御対象の特性が前もって正確に把握することが困難なものや、特性が時々刻々と変動するもの、あるいは非線形であるものなど、制御対象には常に不確かさが存在している。このような不確かさに十分対処することのできるPID制御手法が産業社会で必要とされており、不確かさに応じてPID制御器を自己調整する方法(ロバストPID制御法)、非線形系に対してニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、小脳演算モデル(CMAC)などを用いたインテリジェントPID制御法など多くの手法を開発し、実システムにおいてその有用性が高く評価されている。

田村 秀行 ( Hideyuki Tamura )
立命館大学理工学部情報学科
教授
(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ 複合現実感の研究基盤構築と技術普及推進

◇◇業績概要◇◇

候補者の業績は、世界に先駆けて現実世界と仮想世界と融合する「複合現実感」(Mixed Reality; MR)の研究基盤や技術体系の枠組みを構築し、当該分野の学術振興や技術普及推進にも大きな貢献を果たしたことにある。「複合現実感」の命名者であるとともに、旧通商産業省傘下の「MR研究プロジェクト」(1997-2001年)のリーダーとして、中核となる空間位置合わせ技術や独自のビデオシースルー型表示装置等を開発した。この結果、従来構想レベルや簡単な実験段階に留まっていた技術を、安定して実用化可能な技術水準にまで引き上げ、多くの研究者が参入できる技術領域に育て上げた。 学会活動としては、当該分野の研究委員会を組織して6年間委員長を務め、欧米の学会組織と合併して、わが国が世界を先導し大きな発言力を有する研究交流組織を作り上げた。実用化に関しては、多数の体験可能なデモ・システムの展示や研究成果のリリースを通して、教育・展示・娯楽関連業界の新規事業や、製造業の設計・製造の革新に繋がる道筋を具体的に示した。


代表 山村清隆
山村 清隆 ( Kiyotaka Yamamura )
中央大学理工学部電気電子情報通信工学科 教授
井上 靖秋 ( Yasuaki Inoue )
早稲田大学大学院情報生産システム研究科 教授
(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ 大規模集積回路の大域的求解法の開発とその実用化に関する研究

◇◇業績概要◇◇

LSI設計における大きなボトルネックとして世界中の設計者を悩ませていた「非収束問題」を理論面・実用面の両方から解決するアルゴリズムを開発し、アナログ回路としては最大級である一万素子クラスのアナログLSIを世界で初めて収束の保証付きで解くことに成功した。また、業界に先駆けてこのクラスのLSIの製品化にも成功した。それにより、国内ではLSI設計期間の短縮や民生機器の高度化・低価格化、さらにはそれに伴う情報産業の発展に貢献し、また国外でも、欧米で使われている回路シミュレータのプログラムに簡単な修正を施すことにより大域的収束性が保証されることを証明した論文を発表し、国際的な評価を受けた。 本技術を適用して設計・開発・製造した三洋電機のバイポーラアナログLSIの実績は次の通りである。【生産金額】年間約800億円、【生産数量】年間10~12億個、【輸出額】年間約400億円、【開発期間】従来の2年から1年に短縮、【開発技術】世界市場占有率50%以上の各種高性能・高機能1チップLSIの開発に成功。 又上記論文のアルゴリズムはその後IEEE(米国電気電子学会)のNG-SPICEプロジェクトで採用され、全世界に公開されている。それにより世界中の設計者が収束率100%の回路シミュレータを利用できるようになり、長い間多くの設計者を悩ませた「非収束問題」は国内外で完全に解決されることになった。


代表 井上光輝
井上 光輝 ( Mitsuteru Inoue ) 豊橋技術科学大学電気・電子工学系 教授
内田 裕久 ( Hironaga Uchida ) 豊橋技術科学大学電気・電子工学系 助教授
西村 一寛 ( Kazuhiro Nishimura ) 豊橋技術科学大学電気・電子工学系 助手
朴 載赫 ( Jyaehyukku Paku ) 豊橋技術科学大学電気・電子工学系 博士研究員

(所属は、2004年3月1日現在)
受賞テーマ 光体積記録のための超高速固体空間光変調デバイスの開発

◇◇業績概要◇◇

ホログラム光体積情報記録は、1000bits/μ㎡以上の超高密度情報記録が可能であることから、次世代超高密度光ディスク記録を実現するキーテクノロジーとして期待されている。しかし、信号光をページデータで変調する空間光変調器(SLM)の動作速度が遅く、かつ固体形状で高速動作するものが無いために、我国が得意とする光ヘッド技術と融合させた新しい超高密度高速光ディスク装置への展開が困難であった。 本研究は、磁性体中のスピン・スイッチング速度が数ナノ秒と速いことに着目し、スピン方位により偏光面回転符号が反転する磁気光学効果を利用した高速動作可能な固体SLM(Magneto-optic SLM:MOSLM)を開発したものである。既に10mA程度の小さな駆動電流で70ns/ピクセルに達する世界最高速で動作するSLMの開発に成功し、民間企業への技術移転を通じて、市場投入素子の開発が開始されている。更に、これらの成果を踏まえ、小さな光ピックアップに組み込み可能なように、電圧でスピン方位を制御する次世代MOSLMの原理試作にも成功している。これらの研究成果は、世界的に見ても類のない独創性・新規性の高いものであると同時に、我国主導による新しい超高密度光体積記録装置の実現に強いインパクトを与えるものといえる。