第2回 FFIT振興賞受賞者


第2回 船井情報科学振興賞受賞者6件

西関 隆夫 ( Takao Nishizeki )
東北大学大学院情報科学研究科
 教授

(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ 離散アルゴリズムと秘密共有法に関する先駆的研究

◇◇業績概要◇◇

インターネット、交通網、VLSI配線などに関する多くの問題は、点およびそれらを結ぶ辺からなる”グラフ”上の組み合せ問題として定式化される。候補者は、そのような問題を効率よく解くアルゴリズムの統一的な設計法を確立した。また、道路網やVLSI一層配線のモデルとしてよく現れる平面グラフについては、埋め込み、彩色、ハミルトン閉路、多種フローなど重要な組み合せ問題のほとんど全てに対して、効率のよいアルゴリズムの開発に成功し、それらの成果をまとめ英文の成書(添付資料)として出版しており、平面グラフアルゴリズムの唯一の英文著書として高く評価されている。また、グラフ描画アルゴリズムの研究を世界に先駆けて開始し、凸描画、直線格子描画、矩形描画、箱矩形描画などの理論を体系たてるとともに、それらを求める効率のよいアルゴリズムを開発し、グラフ描画アルゴリズムという研究分野を開拓し、毎年1回国際会議が開催されるまでに育てた。また暗号の分野においても、(k,n)しきい値法の分散情報を秘密共有システムの各構成員に複数個割り当てる複数割り当て法を発明し、その方法を用いれば、いかなるアクセス構造も実現できることを示している。このシステムは、画期的な秘密共有システムとして高く評価されている。

安達 千波矢 ( Chihaya Adachi )
千歳科学技術大学光科学部・物質光科学科
 助教授

(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ 高効率有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の研究開発

◇◇業績概要◇◇

研究当初は発光効率が0.0001%と極めて低い値であったが、材料・デバイス構造の最適化により、現在では内部量子効率が100%に達するデバイスを実現した。 有機ELの黎明期である九州大学大学院時代(1987-1990)では、従来にない新しい有機ELデバイス構造の提案を行った。これにより有機EL素子の基本デバイス構造をすべて分類することができた。現在でも安達らが確立したデバイス構造のカテゴリーに基づき素子設計が行われている。また、デバイス構造の設計と共に、新規電子輸送層材料の提案を行った。これは有機半導体材料における電子輸送材料という新しいカテゴリーを創製した。その後、民間企業の研究所及び信州大学(1991-1997)にて材料研究に特化し、高耐久性材料の合成と分子設計指針の確立、また、高分子材料を用いた厚膜有機EL素子等のデバイス実証などの実用化を念頭においた先駆的な研究を行った。また、最近では、米国プリンストン大学(1998-2001)にて超高効率有機EL素子の実現を果たした。ここでは、リン光性有機金属化合物を発光中心に用いたデバイスにより、内部量子効率が100%に達する究極の有機EL素子を実現し、次世代ディスプレーとしての有機ELの確個たる地位を築いた。これらの研究成果は、有機エレクトロニクスの発展に大きく寄与することができたと考える。

高木 友博 ( Tomohiro Takagi )
明治大学理工学部情報科学科
教授

(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ TS Model (Takagi-Sugeno Model)

◇◇業績概要◇◇

1983年TS Model(Takagi-Sugeno Model)を提唱。現在ファジィ制御の研究は約90%がこの推論法を用いており、提唱論文の引用件数はジャーナルを中心として700件以上。1995年Conceptual Fuzzy Sets を提唱。 ソフトコンピューティングにおける次世代の知識処理パラダイムとして期待されており、これまでにWebインテリジェンス応用やマルチメディアデータの解釈への応用が研究され、その潜在的可能性は極めて大きい。また、知識情報ファジィ学会を中心に新しいリーダーとして潮流を起こしつつあり、今後の学会の方向を明示的に示し引っ張っている世界で数人の一人である。


代表 小島政和
小島 政和( Masakazu Kojima ) 東京工業大学大学院情報理工学研究科 教授
進藤 晋 ( Susumu Shindo ) 神奈川大学工学部経営工学科 教授
中田 和秀 ( Kazuhide Nakata ) 東京工業大学大学院社会理工学研究科 助手
原 辰次 ( Shinji Hara ) 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
藤澤 克樹 ( Katsuki Fujisawa ) 東京電機大学理工学部数理科学科 助教授
水野 真治 ( Shinji Mizuno ) 東京工業大学大学院社会理工学研究科 教授
山下 真 ( Makoto Yamashita ) 東京工業大学大学院情報理工学研究科 
吉瀬 章子( Akiko Yoshise ) 筑波大学社会工学系 助教授
(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ 数理計画(最適化)問題に対する主双対内点法

◇◇業績概要◇◇

代表者小島のScience Citation Indexでの論文被引用合計数は1,400に、また、大学院学生を除く7人の平均の論文被引用合計数は400に達し、本グループの業績はComputer Scienceとしても重要な貢献として認識されている。特に、Karmarkar法に双対理論を導入した主双対内点法を初めて提案し、その基礎を築いた業績は国際的に非常に高い評価を受けている。主要な最適化ソフトウェアパッケージには主双対内点法が実装され、大規模な線形計画問題を解くことが可能になっている。この業績により米国INFORMSより受賞している。さらに、主双対内点法をより高度な最適化問題へと拡張し、それに基づいてソフトウェアSDPAを開発、公開、改良・高速化、並列化している。 SDPA は米国 Argone 国立研究所 NEOS System にも登録され、世界中で広く使われている。 また、SDPA Sparse Formatは世界標準にもなっている。


代表 富田悦次
富田 悦次 ( Etsuji Tomita ) 電気通信大学電気通信学部情報通信工学科 教授
西野 哲朗( Tetsuro Nishino )電気通信大学電気通信学部情報通信工学科 助教授
小林 聡( Satoshi Kobayashi )電気通信大学電気通信学部情報通信工学科 助教授
戸田 誠之助( Seinosuke Toda )日本大学文理学部情報システム解析学科 教授

(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ 先進的アルゴリズムと新情報処理パラダイムの開発と応用・評価に関する研究

◇◇業績概要◇◇

産業界などの実社会で実際に解く必要がある重要な問題には、NP困難問題と呼ばれる、現状では計算量爆発が避けられない非常に難しい問題とが多い、本研究では、そのような問題に対し、コンピュータサイエンスにおける基本アルゴリズムの先進的方式を確立し、それを具体的な問題に応用して解決を得た成果である。 まず、学習理論の基礎になる形式言語・オートマトン等の等価性判定問題について、先駆的なアルゴリズムを確立し、RNAの2次元構造予測などへの応用にも成功している。また、最大クリーク抽出問題を始めとする組合せ最適化問題に対して先進的アルゴリズムを確立することにより、バイオインフォマティクスの主要問題解決などの成果を得ている。一方、様々な新情報処理パラダイムに関して、数理的基礎を与え、革新的な性能解析手法を開発している。特に、NMR量子計算パラダイムの数理的基礎を提示することによってこの領域における理論研究の扉を開け、DNA計算パラダイムにおけるDNA配列の新たな設計手法を開発することによってこの領域の研究を飛躍的に発展させた。またさらに、独創的な性能解析手法を開発することによって、種々の先進的アルゴリズムや新情報処理パラダイムの理論とその応用に関して、従来の予想を覆す革新的成果を確立している。


代表 奥乃 博
奥乃 博 ( Hiroshi Okuno )
京都大学大学院情報学研究科 教授
中臺 一博 ( Kazuhiro Nakadai )
科学技術振興事業団 ERATO 北野共生システムプロジェクト 研究員

(所属は、2003年3月1日現在)
受賞テーマ 音環境理解研究の提案、および、ロボットを対象とした視聴覚統合による実環境・実時間の
音源定位・分離・認識とそのヒューマンロボットインタフェースへの応用

◇◇業績概要◇◇

音声認識はPCの標準装備となりつつあるが、入力として音声からなる単一音源を想定しており、聖徳太子のように10人とまではいわれないまでも複数の同時発話を認識することはできない。奥乃らは混合音の認識のために「音環境理解」( Computational Auditory Scene Analysis )研究を提唱し、調波構造と音源方向の抽出による混合音分離の研究を進めてきた。音環境理解の具体的な応用として、ヒューマノイドのための聴覚システムを取り上げ、自分自身が出すモータノイズのキャンセル法、視聴覚情報統合による聴覚処理や画像処理での曖昧性解消法、聴覚と動作を統合し、知覚能力を向上させるアクティブオーディションなどを考案し、4自由度の上半身ヒューマノイドに実装をし、5台にPCによる実時間処理を達成した。この結果、反響のある部屋で、移動する複数音源の定位・追跡、視聴覚情報統合による複数人物の実時間追跡、3話者同時発話の分離認識を達成するとともに、音を使用した自然なヒューマン・ロボットインターラクションを実現した。